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大口ヨッちゃん
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もう十数年前の夏、 父の里帰りにつきあった時の話。 父の故郷は九州の山奥。 周囲を青々とした山に囲まれた 見渡す限りの水田地帯。 夜になり、 親戚、近所のお馴染さん、 父の旧友などの面子で飲み会をしていると 更にもう一人の客が訪れた。 「父くんが帰って来てるって聞いてね」 「お~!大口ヨッちゃん!元気だったか!!」 父にそう呼ばれ、 父と親しげに肩を叩き合うその客の口は 確かに大きかった。 逆三角形の尖った顔立ちに、 笑いジワの目立つ大きくて薄い口。 欧米人のようなシャープな印象だが 背は小さかった。 「おい息子、 これ俺の小学校ん時の友達、 大口ヨッちゃんこと○○ヨシヒコさん」 「初めまして、息子です」 「あれぇ父くんとそっくりだな。 大口ヨッちゃんです」 「背は小さいけど口はデカい」 「うるせぇなっ」 そんなこんなで\"大口ヨッちゃん\"を交え 飲み会は続いた。 \"大口ヨッちゃん\"が後から来たせいもあって、 それとはなしに俺は彼を見ていたが 見ればみるほど不思議な顔立ちだった。 尖った小さい鼻、 黄身がかった大きな瞳、 大きな耳… およそ日本人らしくない。 かと言って どんな人種だとも 断定できない不可思議な顔立ちだった。 そしてアダ名にもなっている薄く大きな口の、 本当に大きな事。 華奢だけどどこか獰猛、 そんな印象だった。 しばらくして、 明日も早いからと\"大口ヨッちゃん\"は帰っていった。 それを機に俺も、俺も、と客たちは三々五々帰っていき 父と、旧友数人と、家主の大叔母が残るだけになった。 なんとなくちゃけた雰囲気の中で、 父の旧友の一人が俺に 「なあ息子くん、 \"大口ヨッちゃん\"て変わった奴だろ?」 と問いかけてきた。 「やめなさいって」 大叔母が制止するが旧友は構わず続けた。 「あいつ、人間じゃないんだぞ」 しばしの妙な静寂。 別な旧友が話を継ぐ。 「歯医者に行ったら、 こんな造りの歯は見た事ないと医者に言われたって、 本人が言ってた」 話はこうだ。 父たちが幼い頃、 ある幼なじみが病死した。 その子の父親はろくでなしで、 その子が生まれる前に姿を消していた。 その子の母親は子供の死に半狂乱になり、 集落のはずれにある池に身を投げた。 たまたま通りがかった者によって母親は救助されたが いつまた自殺するかも知れない。 そこで彼女と親しかった大叔母が 彼女の家に泊まり込み世話をしたのだそうだ。 ある夜、 大叔母が妙な気配に起きだしてみると家の前に、 泥まみれの赤ん坊が寝ていた。 母親が身投げをした池は××様と呼ばれる、 神がかった存在がいるとされている池だった。 見れば赤ん坊もどこか人間離れした風情。 これは母親を憐れんだ××様が授けてくれた子供かも知れない… とは言え翌日、 警察に報告はしたそうだが… しかし一向に本当の親は見つからず 赤ん坊はしばらくどこかの施設に預けられた後、 母親の希望もあって養子として戻って来た。 それが\"大口ヨッちゃん\"なのだと。 風変わりな風貌でからかわれる事もあったらしいが、 ヨッちゃんは持ち前のヤンチャさで周囲ともすっかり馴染み、 今では農協の要職に就き、奥さんと娘さんもいるとの事。 「まったく馴染んでたから気にもしねぇけど、 ××様の血ぃ引いてるかも知れねーんだよなアイツ…」 父が遠い目でつぶやいた。 「何だろうとヨっちゃんはヨッちゃんでしょ! いい加減におし!」 大伯母が叱りつけるようにそう言って 飲み会はお開きに。 今でも正月になるたび、 実家には\"大口ヨッちゃん\"からの年賀状が届いている。 孫も出来、 たいへん幸せであるらしい。 九州の方言に疎いので セリフは再構成しました。 バレ防止の為、 いくつかの固有名詞を伏せ字にしました。 ヨッちゃんも仮名です。 因みに、ヨッちゃんは よくよく見ればかなり変わった風貌だと分かりますが 知らずにすれ違っても 「口でけぇ」程度かなと思います。
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