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深夜残業
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自分自身が体験した話。 心霊現象かどうかも分からないし、 疲れてただけかもしれないけど、 個人的には洒落にならないくらい怖かった。 その日は2013年の最終出勤日。 帰省の為 有給を使っている者、 早く上がる者が大半の中、 一応チームのリーダーを任されている俺は、 年を跨げない対応に追われてひとり日付を越え、 終電時間を過ぎても会社に残っていたんだ。 先に状況の補足をしておくと、 俺が働いているのは8階建てのビルの6階。 トイレ、給湯室、喫煙所を除けば 階丸々ぶち抜きのワンフロア構成で、 社員は200人以上いるから それなりの広さを想像して欲しい。 帰宅する者は周囲に人がいないことを確認したら、 その周辺を照らす電気を消してから帰るので、 俺の周り以外は真っ暗だったが、 気兼ねなく仕事できるわーとか軽く考えて、 音楽をかけながら仕事をしていた。 少し時間が流れて午前2時くらい。 汚い話で申し訳ないけど、 大きい方をしたくなった俺は トイレに向かった。 トイレに着いて電気を点けたら、 何かおかしいんだ。 違和感の正体はすぐに分かった。 2つある大の個室が どちらも閉まっている。 これって、 状態だけ見れば そんなに不思議でもないんだ。 他の会社がどうかは分からないけど、 ウチの会社は節電の為に、 たとえ昼間でも誰もいなかったら 電気を消す事になってる。 これが少し厄介で、 個室を使っている人がいても、 うっかりなのか癖なのか 電気を消して出ていく奴がいるんだな。 自分もやられた経験があるから分かるんだけど、 出るに出れないから 他の誰かが入ってきて 電気を点けてくれるのを待つしかないわけ。 でも、 今回の場合に関しては 事情が違う。 2時間以上前から、 フロアには俺以外残っていないのだから。 年末だから閉めてんのかな… とかわけ分からん事を考えながら、 内心ビクつきながらも好奇心が勝って、 俺はそろそろと近づいていった。 何かいる。 うまく説明出来ないけど、 何かがいる気配を感じる。 俺は足が竦む、 ってやつを初めて経験していた。 やがて中から物音が聞こえ始めた。 カリ……カリ……と、 おそらく扉を引っ掻く音。 右の個室から音が止まったら左の個室から、 左の音が止むと今度は右、 と規則性があるようだ。 正常な判断が出来ていたかどうかは分からないけど、 少なくともその時はそう聞こえた。 音のする頻度、大きさは次第に増していき、 少しずつ水を流しているような ゴポゴポという音も混じり始めた。 もう駄目だった。 弾かれたように、 って表現はああいうことを言うんだろうな。 体の自由を取り戻した俺は 一目散に逃げだした。 一時的にでも密室に入るのが嫌で、 エレベーターをスルーして階段に向かった。 1階まで一気に駆け降りると、 動揺したように常勤の守衛さんが駆け寄ってきた。 「どうしたんですか、今の声!?」 どうやら気づかないうちに 俺は叫び声をあげていたらしい。 「6階のトイレに…何かがいて……」 そう絞り出すのがやっとだった。 恥ずかしながら 守衛さんに近くにいて貰いながら 1階でトイレを済ませ、 守衛室で少し休ませてもらう事になった。 多少なりとも落ち着きを取り戻した俺は 事の顛末を話した。 守衛さんは馬鹿にする風でもなく 親身になって話を聞いてくれたが、 似たような前例は無いのかの問いには 首を横に振るだけだった。 ずっとそうもしていられないので、 二人で6階の様子を確かめに行くことにした。 エレベーターに乗って6階に向かい、 件のトイレに近づく。 「それじゃあ、電気点けますよ」 そう言うと 守衛さんは一足先に中へ、 自分もそれに続く。 個室も2つとも開け放されていた。 何かがいる気配もなく、 痕跡も残っていなかった。 ただ、おかしいんだよ。 確かに俺は 電気を点けっ放しで逃げたはずなのに、 なぜか電気は消えていたんだ。 気味が悪くなった俺は、 そのまま鞄を回収して会社を出た。 始発の時間はまだだったが、 とにかくこれ以上この場にいたくなくて、 コンビニで時間を潰して帰路についた。 それ以降、 特に自分に変わったことは起きていない。 年が明けてから 同僚の何人かにこの話をしてみたけど、 そのような噂は聞けなかった。 正直なところ、 「ゴメンゴメン それ俺が仕掛けたドッキリなんだわ」 みたいな反応を期待していたんだが…。 俺は今もその会社に勤めている。 でも、もう一人での深夜残業は絶対にしない。
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