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引きずる女
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その日は友人が アパートへ泊まりに来ていた。 深夜2時頃まで飲み、 酔い覚ましをかねてコンビニへ行く事に。 コンビニまでは 住宅街を1kmほど歩かなくてはならない。 しばらく歩いていると 妙な音が聞こえてきた。 カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ 深夜の閑静な住宅街である。 他にはなんの音もしない。 「何の音だこれ?」 友人が俺に聞いてきたが わかるはずもない。 音は徐々に大きくなっていき、 その音に紛れて別の音も聞こえてきた。 カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ カツン・・カツン・・ という音はどうやら足音のようだ。 またしばらく歩いていると 前方に人影が見えた。 あの足音はこの人の足音のようだ。 ではカラカラカラカラは何の音だろう? 人影は徐々に鮮明になっていき、 女性という事がわかった。 ミニスカートにヒールを履いている。 あのカツン・・カツン・・ はヒールの音だった。 それと同時に カラカラカラカラという音の正体もわかった。 女は右手で金属の棒を引きずっていた。 カラカラカラカラの正体はこの音だった。 俺はドキッとして 友人と顔を見合わせた。 前方からくる女は普通じゃない。 引き返したほうがいいのは明らかだった。 しかし俺と友人は足を止めなかった。 女一人に大の男二人が ビビって逃げ出すのがどうにもかっこ悪かった。 友人もそう思ったのだろう。 カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ もう数十メートル前まで女は来ている。 もうとっくに友人との会話はなくなっていた。 カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ もう、あと数メートル・・・・・ 道幅は車一台分・・・・・ 尋常じゃないくらい心臓が波打っている。 カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ 俺は拳を硬く握りしめ、不測の事態に備えた。 カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ !? 特に何もなく女とすれ違った。 それでも俺と友人は そのまま無言で足を進めた。 数十メートル歩いて 俺は我慢しきれず友人に話しかけた。 「マジでビビった~~~、 なんだよあの女!?」 「いやまじ怖かったな・・・ ホント足が震えたわ!!」 安堵感からテンション高めで会話していると 不意に友人が妙なことを言い出した。 「あれ? ・・・・・あのさ・・・・・ あの女って・・・・・ 首なかったよな?」 急に何怖いこと言い出すんだこいつ と思ったが・・・・・・・・ 確かに首がなかった。 あの女には首がなかった。 なんで今になってそんな事に気づいたのかわからないが 確かになかった。 カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ もうだいぶ歩いたはずなのに あの音が遠ざからない・・・・・ カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ 遠ざかるどころか音は また徐々に近づいてきている。 カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ 俺は我慢できずに後ろを振り返ろうとした。 「やめろ!!!!」 友人は叫ぶと同時に走りだした。 俺も友人に一足遅れて走りだした。 コンビニまではあと300メートルほどだ。 俺達は必死に走ったが あの音は遠ざからない。 カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ カラカラカラカラカラカラカラカラカラ・・・・・・ カツン・・カツン・・カツン・・カツン・・・・・・・・・ 「ああああああああああああああ・・・・・・・」 突然友人が叫んだ。 あの音を聞こえなくするためだろう。 それにつられて俺も叫んだ。 「ああああああああああああああ・・・・・・・」 それから気がつくとコンビニにいた。 俺も友人も息は切れ、 足はガクガク震えとても立っていられず、 レジ前で座り込んでしまった。 「どうしたんすか?」 コンビニの店員が聞いてくるが 何も答えられなかった。 それから朝の7時頃までコンビニにいたが 何をしていたか、 友人とは何を話したか覚えていない。 とにかく朝の7時頃まで コンビニでじっとしていた。 もう十分外が明るくなっても なかなか外に足を踏み出せなかったが、 意を決して帰路についた。 友人とはあの女について何度も語り合ったが、 あの辺に幽霊が出るという話は聞いたことがない。 結局、 危ない女が深夜に金属バットを引きずっていた という結論に至った。 首がなかったことについては、 俺達がビビって首から上を見れなかったから そんなふうに思ってしまったのだろうという事になった。 まぁ酔ってもいたことだし。 兎にも角にも、 これが俺が生きてて一番怖かった体験だ。
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