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見えないものが見えてた
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俺は気付けば 小学校2年生ぐらいから 周りには見えないものが見えてた。 初めて見たのは その年亡くなった俺の祖父。 当たり前に見えてしまって、 みんなこうなんだって思った。 学校へ行ってから そんな話で盛り上がれるもんだと思ってた。 当然そんな話を切り出せば、 最初のうちは皆面白がって聞く。 一緒に近所のお墓行っては 「いる?」 とか聞いてくる。 で、段々と 「ああ皆には見えないんだ」 と何か自分だけが特別みたいな事を考え始める。 やがていわれのないいじめを受ける。 「あれは嘘だ」 と。 小学校には既に行きたくなかった。 行ってもなんとなく勉強して 休み時間はひっそり過ごして。 俺は小学校3年生になってたわけだが、 うちのクラスは特別陰険な奴が一人いて ソイツとはあまり仲良くもなかったので そんな話はしたこともなかったのだが いつの間にかソイツが筆頭で いじめがエスカレートしていったある日。 ソイツが一緒に帰ろうと言い出した。 嫌だと断ると ソイツはおびえた目で俺を見ていた。 何か鬼気迫る様な表情だったのでそれ以上断れず、 ソイツ―Hとしよう。 Hと一緒に帰った。 あれは忘れもしない1989年8月4日 未だに日付まで覚えてる。 よほど印象に強かった出来事なんだろうと 今でも思う。 Hと二人で歩いていたが Hは最初無言だった。 俺も無言だった。 国道脇を通る道だったので、 車の音と蝉の声がやけにうるさく感じたのを覚えてる。 やがて帰る方向が分かれるため、 俺は 「じゃあね」 と言って去ろうとした。 じゃあねの「ね」が言い終わるのと同時ぐらいに Hは 「うちへきて」 と言った。 俺はなんか仲間が待ってて 嫌がらせでもされるんじゃないかと思って、 断ろうとしたのだが どうもHの目がおかしい。 っていうか良く見たら泣いてた。 これはただごとじゃないんだな、と思って 俺もなんか自分が特別みたいなアホな事考えてたから ヒーローにでもなった錯覚だったんだろうな。 「わかった」 ってHの後についてった。 彼の家はごくごく普通の一軒家なのだが、 夏だというのに凍りつくような寒さだったのを思い出す。 既に第六感は 入ってはならないという警鐘を鳴らしていた。 しかしHは何も言わず家に入っていく。 仕方ないので黙ったままついていくと ごく普通の玄関を通り、 そのまま彼の部屋へ通され、 かばんを降ろすとHは 「…見て欲しい」 とだけ言って俺についてくるように促した。 心臓はバクバクいって 本当はもうすぐにでも帰りたかった。 彼に案内されるがままに、 一階の一つの部屋の前でHの足が止まった。 そっと襖を数cmだけ開けてHが中を覗く。 そして俺にも見るように目で促す。 怖かったが、 それでも少し好奇心があったんだろう。 俺もそっと覗いてみた。 その部屋だけは この世のものとは思えない、 異様な光景だった… ここだけはうろ覚えなのだが、 Hの母が包丁を左手に持ったまま 下着姿で仰向けになっていた。 息がかなり荒く、 仰向けのまま 「ハァ…ハァ…」 と息切れとか そんなレベルではない苦しそうな呼吸だった。 死んでいたとか 誰かを殺したわけではなさそうだが、 壁や障子、至る所を切り裂いたのはわかった。 部屋からは悪臭も漂っており、 スーパーで売ってるような肉が 生のままそこらへんに散乱していた。 その部屋は客間だったようで、 床の間があったわけだが そこに誰かが正座していた。 しかも表情が笑っている。 老人なのだが男女の区別はわからない。 土気色の肌にぼさぼさの髪、 薄紫っぽい着物で目玉が無い。 心霊番組の見すぎだったかもしれないが、 この怪現象はあのせいだ、とすぐに思った。 途端に老人はこちらへ首を不自然な動きで向けた。 もうやばい、本当にやばい! 身に迫る本当の危機を感じて、 激しく襲ってきた頭痛と吐き気をこらえながら Hの手をつかみ、必死でその家から逃げた。 俺の家まで数百メートル。 後ろも振り向かず、 二人とも全力で走った。 俺の家ではたまたまオヤジが仕事休みのため、 両親ともいた。 そしてHでの家のことをありのままに話した。 Hからの話も色々聞けた。 つい昨日から穏やかだった母が錯乱したとの事。 父とは離婚しており、 片親だけだったそうだ。 そこで俺は初めて うちの両親もそういう存在を感じる人だということを知った。 だからそんな話を真剣に受け止め、 オヤジはHだけを連れてどこかへ行った。 家にいた俺は色々と考えていたが 落ち着いた頃、 ランドセルを忘れた事に気がついた。 そしてその日の夜、 オヤジは俺のランドセルとHを連れて帰ってきた。 何があったのか今でも話してくれないのだが、 「もう大丈夫」 とだけ言った。 結局Hの母は入院し、 あの日あの後何が起きたのかはわからないが オヤジがそんな御祓いとかなんて出来るわけないと思っているので 仲のいい和尚にでも言ったのかもしれない。 それからはHと良く遊ぶようにもなり、 クラスでのいじめじみた事もなくなっていった。 あの日あそこで見た事はなんだったのか 今でも良くわからない。 だがこの話で一番怖いというか凄いと思うのが、 Hはこの話を覚えていない事だ。 今でも付き合いがあるので、 ある日話したのだが、 とぼけてる風でもなく 本当にそんな体験してないよ的な感じだった。 人間あまりに怖い思い出とかって 記憶からDelete出来るもんなのかね…
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