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古本屋
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俺は小学生の時(から高校までずっと)、 遠くの私立の学校に電車で通ってたので、 地元に友達って一人もいなかったのよ。 んで、両親は共働きだったんで、 毎日親が帰ってくるまで俺は家で一人で遊んでたんだ。 つっても、一人で遊べるようなおもちゃなんてほとんど持ってなかったし、 何してたかっつうと、ずうっとマンガ読んでたのね。 うちの親はファミコン禁止にしてたくらいで、 マンガもほとんど買ってはくれなかった。 だけど、月の小遣いに500円と、 あと小1の頃から片道1時間超かけて通学してたから、 途中でのど渇いたらジュース買っていいってことで、毎日100円もらってたのよ。 そのお金で、マンガを買いまくってたわけだ。 でも、それだと月3000円くらいじゃない。 10冊も買えないんだよね。 もう、あっという間に読み終えちゃう。 だからいっつも、もっとマンガ買いたい、 もっと読みたいって思ってた。 で、小4くらいだったかな。 ある時、どうも世の中には古本屋というものがあって、 そこではマンガが安く買えるということを知って。 しかもちょうどよく、駅から家までの途中に古本屋があったのよ。 初めてそこに恐る恐る入った時には驚いたね。 だって、色んなマンガが100円かそれ以下で売ってるんだよ。 もうそれ以来、毎日100円を握り締めて その店に通うようになったとも。 でもさ、所詮その店は町の古本屋さんなわけで、 在庫なんかたかが知れてるさね。 もちろんたまに入荷はあるんだけど、 毎日1冊買ってりゃそりゃあそのうち買うものもなくなるわ。 全然面白くなさそうなのでも、 無理矢理買ったりして誤魔化してたんだけど、 (小学生で『実験人形ダミー・オスカー』とか買う俺も俺だが、売る店主も店主だ) やっぱり、だんだん物足りなくなってっちゃったのよ。 そんなわけで、その店に飽き足らなくなった俺がどうしたかと言うと、 新たな古本屋を探し始めたわけです。 当時住んでたとこは、まあ田舎ってわけでもなし、 自転車で遠出すれば簡単に別の町に行けたからね。 で結果的に、意外にけっこう近く、 自転車で15分くらいのとこに別の古本屋を見つけたわけですよ。 それが家を出て左の道を進んでったところで、 駅とは反対の方向だから、 子供の頃から全く行ったことがなかったとこにあったんだ。 なんか小さなショッピングモール?っていうの、 ひとつの建物の中に4~5軒、 おもちゃ屋とか駄菓子屋とか肉屋とか入ってる建物があって、 道をはさんでその向かいに、って説明しても意味ないけどさ、 まあそれくらいはっきり、道順も風景も覚えてるってこと。 その店にはもう感動したよ。 今まで見たこともないような、 でもものすごく面白そうなマンガがずらりと並んでてさ。 まあでも、やっぱり買えるのは1冊か2冊だから、 一生懸命選んで選んで買って、 ほくほくしながら帰って読んだら、予想通り本当に面白いし。 ただ、その店にはそんなにしょっちゅうは行かなかったんだよね。 せいぜい何度かってくらい。 っていうのも、その店は小さいんだけど品揃えがすごいから、 いつ行っても、あれも欲しいこれも欲しいってなっちゃって、 結局買えないのが辛くてたまらないから、ってのもあった。 でも正直なところ、どうしてそんなに行かなかったのかは覚えてないんだよね。 今になってみると、行かなかったんじゃなくて、 行けなかったのかもしれない、って思うんだけど。 まあとにかくそんな風に、 古本屋に通ってはマンガを買ってた小学生時代だったんだけど、 中学に入ってからは、部活が忙しくて帰りが遅くなったりとか色々な理由で、 あんまり古本屋に行かなくなったんですよ。 駅からの途中にある最初の店は、 それでもそれなりに寄ったりしてたんだけど、 二番目の店は、ちょっと出なきゃいけないってのも面倒だったし。 んで高校になって、今も住んでるところに引っ越したわけです。 不思議なのはここから。 高校になって受験勉強とかしてる時って、 やっぱまあ色々辛いので、小学生時代を懐かしんだりするよね? で、思い出されるのは、何故かいつも二番目の店だったわけだ。 しまいには夢にまで見るようになってさ。 それでとうとう、何年かぶりにあの店に行ってみよう、と思ったわけ。 駅から、ほんの数年前まで毎日通ってた道を、 懐かしんだりしながら家まで歩いて、そこからあの店まで、 歩きだと30分くらいかな? ここをこう行って、ここで曲がって、 そうそうここの家がでかい犬を飼ってて―― で、はたと立ち止まってしまったのよ。 (なんかもう想像ついてるだろうけど) あの店が、というより、あの店まで行く道がない。 あとひとつ角を曲がれば、 あのモール?の建物と向かいの古本屋があるはずなのに。 もう何度も確かめたよ。 少し先まで行って曲がってみたり、いったん戻って行き直してみたり。 それでも、そこで曲がるはずの角がどうしても見つからない。 というか、T字路だったはずなのに、 右の棒の部分の道がなくて逆L字になってるんだよね。 その日は夕方だったから間違えたのかも、 と思って、次の日曜に行ってみたりしたけど、 やっぱりどうしても曲がり角は見つからなかった。 そんで、ふと気づいたんですよ。 俺は前述の通り、マンガに対する執着がものすごく強かったから、 引越しの時もマンガは1冊も売ったり捨てたりしてないのね。 しかも、そのどれも何度も何度も読んでるから、全部完璧に覚えてるのよ。 なのに、あの店で買ったマンガがどれだったか、全く思い出せない。 あんなに面白い面白いって読んだはずなのに、 どんなマンガだったのかさっぱり覚えてないんだ。 なんかそれに気づいてからは、 無理に探したりしない方がいいのかも、とか思うようになった。 よくわからないけど、そっとしといた方がいいものなのかなって。 ちなみに、社会人になった今でも、 辛いことがあるとあの古本屋の夢を見るんだよね。 高校の時からずっと同じ内容なんだけど、 家の前から左の方に記憶どおりに進んでいくと、簡単にあの店まで行けるのよ。 変わらず小さいけど、良い品揃えで、面白そうなマンガばっかりで。 で、小学生の時よりはるかに金持ってるから、 大人買いしようとするんだけど、 何故かいつもどうしても買えないんだよね。 急に人がいっぱい店に入ってきて押し出されちゃったり、 逆にレジにも誰もいなくて何度呼んでも出てきてくれなかったり。 そのうちに、あ~あ、そろそろ帰らなくちゃな、 って気がして、目が覚めるんだ。 いつになったら買えるのか、自分でも楽しみにしてるんだけどね。
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