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喪服の女
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長編19分
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高校生の頃、 俺達のクラスに短期交換留学生が2人やってきた。 そいつらとの出来事を書こうと思う。 そいつらが来てから暫らくして、 クラスの女子たちが留学生2人の事を軽く無視し始めた。 その時は原因は良く解らなかったが、 俺たちはとくに深く考えず、 差別するのも良くないと、 留学生2人と仲良くしていた。 2人ともいいやつで、 日本のことも好きだというし、 ぶっちゃけ当時は、 なんで女子から嫌われていたのか解らなかった。 そんな事が続いた夏休み少し前のある日、 俺たちは以前から気になっていた、 廃墟になっている空き家へ肝試しに行こうと計画をした。 行くメンバーは、 俺、A、B、Cと、留学生のD、Eの6人。 DとEは当初メンバーに入っておらず、 一緒に行きたいと言われたときも、 あまり人数が多くなるとゴタゴタしそうなので断ったのだが、 迷惑はかけないからと押し切られて連れて行く事にした。 当日土曜の夜8時頃、 俺たちは空き家から一番近いBの家に泊まるという名目で集合し、 そのままBの家で10時まで時間を潰してから、 現地へと向かった。 少し山道を登った先にある廃墟の空き家は、 懐中電灯に照らされてやけに大きく見え、 昼間見るのとは桁違いに不気味だったのを覚えている。 空き家に近付くと、 どこから仕入れてきたのか、 Aが 「裏の勝手口のドアの鍵が壊れてて、 そこから入れるらしいぞ」 と言ってきた。 雑草を掻き分け裏に回ると、 勝手口ではなくただの裏口っぽかったが、 たしかに鍵の壊れた扉があり、 みんな一瞬躊躇したが、中へ入る事にした。 ドアを開けて中に入ると、 そこには先が真っ暗でよく見えない廊下が続いていた。 以前にも誰かが侵入した事があるようで、 埃まみれの板張りの床にはいくつか靴跡も確認できる。 やはりここは有名なようで、 俺たちのように肝試しにやってくるやつは結構いるようだった。 廊下を進むと、すぐに板張りされて 更に何か色々と荷物が置かれて封鎖されている玄関に出た。 玄関の左手には和室らしき部屋が、 右側は暗くてよく見えないが、 ガラス張りの戸になっているので恐らく台所だろうか そして、 台所のあるらしき側の壁に、 二階へと続く階段がある。 俺たちは、 まず左手の和室らしき部屋に入る事にした。 中に入ると結構広く、 8畳くらいの部屋が2つ、 真ん中を襖で仕切る構造になっている。 家具類は一切無いが、 なぜかぼろぼろの座布団が一枚だけ落ちていたのを覚えている。 とくに何も無さそうなので、 俺たちが外に出ようとすると、 Cが何かを見つけたらしく、 「ここ開くっぽいぞ」 と床の間の辺りにしゃがみこんだ。 俺も言われて気付いたのだが、 床の間の板張りの部分が一部ずれていて、 どうもそこの板だけ取り外せるようになっているようだった。 先に部屋から出ていたA、 Bと留学生2人も戻ってきたところで、 最初にみつけたCが板を外してみた。 板を外すと、 そこには幅40cmくらい、 深さ30cmくらいの空間があり、 中にこげ茶色の木の箱があった。 Cが板をあけた時の勢いのまま木箱を取り出し蓋を開けると、 中には更に小さい桐製と思われる小さな小箱が納められている。 小箱そのものは何年も放置されていたせいか、 黒く変色しカビらしきものも生えているが、 明らかに高そうな品物を入れているっぽいつくりだった。 Cも流石に躊躇したのか、 桐の小箱に伸ばした手が一瞬とまった。 が、Bの 「早くしろよ」 という言葉におされて、 そのまま箱の中から小箱を取り出し、 蓋を開け中身を取り出した。 中には、素人目にも高そうに見える懐中時計が入っていた。 そのとき、 さっきまであまり喋っていなかった留学生の片割れのDが、 カタコトの日本語で、 「それ、高いの?」 と聞いてきた。 俺は、 「よくわかんないけど、 たぶん高いんじゃないかな。 なんか金っぽい装飾もあるし、骨董品っぽいし」 と返すと、 DもEもそのことに興味津々っぽいようだった。 でも俺たちは、 当然持ち帰る気は無かった。 当たり前の事だが、 こんな怪しい場所に、 明らかに『隠されてた』ようなものだ。 当然相応の理由があるはずだ。 そんな話をしていると、 BとCの 「…うわ」 という声がした。 何かにどん引きしているようだ。 2人の見ているほうを見ると、 どん引きしているものの正体にすぐに気付いた。 最初のでかい方の木箱が入っていたスペース、 箱を出した時は気付かなかったのだが、 底のほうに明らかにお札と解る、 変色した紙くずが大量に落ちている。 Bが 「この時計やばいって…早く戻して帰ろう…」 というと、Cも 「だな、ちょっと洒落にならんわ…」 と、時計を箱の中に戻した。 その時、 メキメキメキッ!と大きな音がして、 Aが胸の辺りまで下に落っこちた。 どうも、 Aのいた辺りの畳と床板が腐っていたらしい。 Aは 「いった~」 と声をあげて暫らく痛そうな顔をしていたが、 怪我は無さそうで、 「足が地面につかないから上に上がれない。 引き上げてくれよ」 と元気そうに言ってきた。 どうやら下は、 すぐに地面では無く結構深いらしい。 Aは開いた穴にぶら下がるような形になっているようだ。 俺たちはそのマヌケな姿に、 さっきまでの気味の悪さから来る恐怖心も吹っ飛び、Aを 「かっこわる~」 とAを指差しながらゲラゲラ笑った。 この間、 DとEは殆ど俺たちと絡まず、 2人でずっと何か話していた。 こういう状況なのに妙におとなしいのを、 少し怪しむべきだったかもしれない。 が、そのままにしておくわけにはいかないので、 俺とBとCがAの背後と左右にまわり引っ張りあげようとした。 しかし、 どうも床板の部分が“かえし”のようになってしまているらしく、 力ずくで引っ張りあげようとしても無理そうな感じだった。 さてどうしようかと考えていると、 Aが 「ちょっと静かに、なんか上から聞こえる」 と言ってきた。 耳を澄ますと、 微かだが二階のほうから何か聞こえてくる。 カリ…カリ…カリ… 壁か床を爪で引っ掻くような、 そんな感じの音だ。 DとEはお札にはあまり反応しなかったのだが、 流石にこの状況の異常さはきついらしく、 かなり不安そうな顔をしている。 というか、 よくみると男同士なのに手を繋いでいる… 音はなおも二階から聞こえている。 Cが 「ここ、俺たち以外誰もいないはずだよな… 上に誰かいるってことは無いよな…?」 というと、Bが俺に 「なあ、2人でちょっと確認に行かないか…」 と言ってきた。 Aがかなり不安そうに 「俺このままかよ!」 というと、 「CとDとEでAを引き上げてくれ。 俺たち見に行ってくる」 と、俺を誘って部屋を出た。 まず言いだしっぺのBが階段を上り、 俺がその後に続いたのだが、 Bが階段を登りきる辺りで立ち止まり動かなくなった。 俺が 「おいBどうした?何かいたのか?」 というと、Bは 「しっ!静かに」 といって、 階段を登りきった先のほうを凝視している。 暫らくするとBは、 「おい、ゆっくりだ、 騒がずゆっくり逃げるぞ」 と小声で言い、 俺に後ろに下がるように言ってきた。 どうもBは、 二階に何かを見たらしい。 俺が 「なんだ、何かいたのか?」 というと、Bは 「後で話す、 ここはヤバイ、早く逃げよう」 とだけ言った。 そして俺が降り始めたとき、 突然Bが 「こっち見た!やばい!早く下りろ!」 と叫び出した。 何がなんだか解らず俺は階段を駆け下り、 A達のところに向かうと、 まだAは引き上げられていなかった。 Bが 「何やってんだ!早くしろって!ここから逃げるぞ!」 というと、 AもCも事態がつかめず、 「なんだよB、何があったんだ?」 と不安そうに聞いてきた。 その時、天井から聞こえていた何かを引っ掻く音が、 ガリガリガリガリガリ!と急に激しい音になり、 次いで…ギシ…ギシと、 二階を誰かが歩く音が聞こえてきた。 足音はゆっくりとだが、 階段の方へ向かっているように聞こえる。 流石に俺とA、Cも何かヤバイという事が解り、 無理矢理にでもAを引き上げようと、 力いっぱい引っ張る事にした。 その時、ふと俺が顔を上げたとき、 床の間の方に信じられないものを見た。 なんと、 DとEが懐中時計の入った箱を手に持ち、 俺たちを置いて逃げようとしている。 俺は、 「おいD、Eお前ら何やってんだ! そんな事してる場合じゃないだろ、 こっちきてA助けるの手伝えよ!」 というと、 2人は一瞬こちらを振り向いたが、 そもまま部屋を出て逃げて行ってしまった。 ありえない。 この状況でこんな事できる神経が信じられなかった。 一瞬、俺とBが2人を追いかけようとしたが、 まずはAを助けるのが先と気付き追うのをやめた。 そして、 “かえし”になっている床板部分が問題という事で、 急いでその部分を踏みつけて崩していると、 とうとう足音が階段の近くまでやってきた。 そしてまた、 ガリガリガリガリガリ!と、 激しく壁か床を引っ掻く音が聞こえてくる。 俺たちはかなり焦っていた。 夏場で熱いのもあるが、 明らかにそれとは違ういやな汗をかいていた。 …ミシ 音はとうとう階段を下り始めた。 そのとき、 やっとの事でAを引き上げることに成功した。 俺たちは大急ぎで部屋を出ると、 もと来た廊下を戻り外に出た。 その時、俺は一瞬だが階段のところに人の足を見た。 一瞬だったので良く解らなかったが、 白い足袋を履いているように見えた。 そして全員裏口から外に出ると、 そのまま外に停めてあった自転車に乗り、 全力でBの家まで逃げ帰った。 Bの部屋に入ると、 Bがやっと廃屋の二階で見た事を話し始めた。 階段を登りきる辺りで、 Bは何かを引っ掻くような音が、 二階の部屋ではなく、 二階にある壁そのものから聞こえている事に気付いたらしい。 そして、 音のする壁がどこなのか探していると、 月明かりに照らされた一番奥の壁に、 何か黒っぽいしみのようなものがあるのを発見した。 音はどうやら、 その壁から聞こえてきているようだったという。 ここまで聞いて俺は、 「それだと、 その壁のある部屋の中から聞こえているって可能性もあるんじゃね?」 と聞くと、Bは 「いや、それなら音が少しこもるから解るだろ。 まあ説明するから聞いてくれ」 といって話を続けた。 黒い沁みのようなものを凝視していると、 まず壁から人の手が伸びてきて壁を引っ掻き出し、 次に顔、体、足という順に、 喪服を着てガリガリに痩せた老婆?のような人影が出てきたらしい。 そしてその老婆は、 完全に壁から出てくると廊下に正座し、 壁をガリガリとまた引っ掻き出したんだという。 Bはここまで話すと一瞬身震いして、 右手で左腕の肩の辺りを触りながら、 「俺、それをじっとみてたんだよ。 そしたらさ、 その婆さんがこっちを振り返って、 ニヤニヤって感じで笑ったんだよ…」 それで俺に、 「こっち見た、早く逃げろと」 言った部分に繋がるらしい。 Bは続けて、 「あのニヤニヤ顔はヤバかった… 月明かりだけで薄暗かったけど、 『悪意のある顔』ってのがどういうものか、 俺はほんと良く解ったよ…」 と、そして 「あの顔一生忘れられねーよ…」 と、頭を抱えて黙ってしまった。 Bの態度を見て全員沈黙してしまったのだが、 暫らくしてAが、 「そんな事よりDとEだ、 あいつら最悪だろ! 俺たち見捨てて逃げやがった!」 とかなり怒っている。 Aは自分が一番危ない状況だったのだから当たり前だが。 そして俺が、 「あいつら見捨てて逃げただけじゃないぞ。 あの時見つけた懐中時計を盗んで逃げやがった。 しんじらんねぇよ…」 と、懐中時計が盗まれている事も皆に教えた。 その日はそのままBの家に泊まり、 DとEに文句言うのは月曜ということになった。 月曜日、 俺たちが学校へ行くと、 DとEは予想通り俺たちを避けていた。 文句を言おうにも、 授業が終わると教室の外へ行き、 次の授業まで帰ってこない。 そんな状態が暫らく続いた。 その間俺たちは、 DとEの話をクラスのみんなに話したのだが、 その時初めて、 何故女子が無視していたのかを知った。 なんとDとEは、 女子相手にクラスの男子の陰口や自分達の自慢話をしていて、 それで嫌われていたらしいのだ。 その結果、3日もしないうちに DとEはクラスで完全に孤立した。 それから数日後、 俺たちはこの事件がまだ終わっていない事を思い知らされた。 最初の変化はBのところに現れた。 Bによると、 夜中寝ていると、 Bの部屋の窓のところに老婆が現れ、 一晩中ガラスを引っ掻いていたらしい。 そして同じ老婆が、 その一日後にA、 更に1日あけて俺ところにもやってきた。 ただ窓辺に立って引っ掻く音を立てるだけで、 実害らしい実害はなかったが、 空き家であれの顔を見ていたBはかなり怯えていた。 俺のところに老婆がやってきた翌朝、 その事を教室で話していると、Aが 「もしかして…」 と携帯を弄り始めた。 何かと思ってみていると、 Aは携帯の地図を見せながら、 「ここがBの家で、 ここが空き家で…」 と説明し始めたのだが、 俺はその意味がすぐに解った。 「問題の空き家から近い順に回っている? でもなんで?」 とBが言うと、Aは 「解らないけど、 もしかして例の懐中時計を探しているとか…?」 と言った。 たしかに可能性はある。 でも、 懐中時計を持っていったのはDとEで、 俺たちは関係が無い。 Cもそう思ったのか、 「俺たち関係ねーじゃん、 なんで付き纏われるんだよ」 という。 たしかに、 懐中時計が原因だとすると凄く理不尽だ。 そして肝心のDとEなのだが、 2人がホームステイしている家は、 あの日のメンバーの中で一番空き家から遠い。 俺たちが考えている通りならば、 まだ留学生2人のところにも来る可能性はあった。 とにかく、 次は距離的にCのところに老婆が来る可能性が凄く高いので、 一応部屋に盛り塩をして警戒しよう、という話になった。 何かあるにしても、 それはDとEに対してであって、 Cのとろこに来ても、 俺たち3人に起きた程度のことだろうと、 タカを括っていたからだった。 Cの家に来る予定だった日の翌朝、 学校へ行くと、Cが入院したと言う話を聞かされた。 詳しく聞いてみると、 入院と言ってもすぐに退院できる程度らしいが… 放課後俺たちが病院へ行くと、 擦り傷だらけで真っ青な顔のCが、 ベットに横になっていた。 意識もあるし ぱっと見怪我も大した事無さそうだが、 精神的に相当まいっているようだ。 俺たちはCに何があったのか事情を聞いた。 (以下はCの話) Cが夜寝ていると、 俺たちのときと同じように窓のあたりから、 …カリ…カリと、 何かを引っ掻くような音が聞こえてきたらしい。 Cはとにかく気にしないように、 窓とは反対方向を向いて寝ていたのだが、 はじめ外から聞こえていた引っ掻く音が、 暫らくすると“部屋の中から”聞こえるようになった。 なにかおかしい。 そう思ったCが寝返りをうつ振りをして窓の方を見たとき、 なんと自分の顔のすぐ横にやつの顔があり、 やつはニヤニヤという感じの、 明らかに悪意のある顔でCを覗き込んでいた。 びっくりして布団から飛びのくと、 そのままやつはニヤニヤと笑いながら、 両手を伸ばして近付いてきたらしい。 「盛り塩なんて何の役にも立たなかった」 とCは言っていた。 Cは部屋から飛び出して1階まで逃げたのだが、 やつはCをずっと追いかけてきた。 それでパニックになり、 Cは玄関から飛び出して外に逃げ出した。 ただ、 その時は勢いで外に逃げ出したので、 その後どうすればいいか全く考えておらず、 とにかくあても無く夜道を走り続け、 ふと目に付いた小さな神社に逃げ込んだ。 そして、 拝殿の中に逃げ込み、 そのまま朝まで篭城するつもりだったらしい。 だが、 Cの目論みは外れてしまった。 神社の中なら大丈夫だろうと思っていたらしいが、 暫らく拝殿の周囲を歩き回っていたがやつは、 何なく拝殿の扉をすり抜け、 ハハハハハ!ヒュー… ハハハハハ!ヒュー… と、 喘息患者みたいな呼吸と笑い声を上げながらCに近付くと、 Cの首を絞め始めた。 Cは 『あ、俺こんな事で死ぬのか…』 と思いながら気を失ったらしい。 翌朝、 Cは神社に掃除に来たお爺さんに発見され、 そのまま救急車で病院へ運ばれ今に至ると。 病室でCは続けてこう言った。 「あいつ婆さんじゃなかった… ガリガリに痩せてたからぱっと見婆さんに見えたけど、 声は明らかに若かった… たぶん、20代くらいなんじゃ無いかと思う」 と。 色々とんでもない話だったが、 一番とんでもなかったのはCが殺されかけたって事で、 話を聞いて相当ショックを受けた。 俺たちとCに何か違いがあったのか、 それとも俺達はただ偶然助かっただけなのか、 原因がさっぱり解らない。 Cは体に異常は無いとうことらしく、 その日1日入院するだけで退院できた。 翌日は1学期の終業式で、 授業もなく学校が早く終わった。 しかし、 俺たちは担任に生徒指導室へと呼ばれた。 担任の話はこうだった。 俺たちがDとEを連れて空き家に肝試しに行き、 そこでDとEを置き去りにしたと。 そして、 学校に来てからも2人を泥棒呼ばわりして、 クラス全員で無視していると。 しんじられん、最悪だ。 それが俺の率直な感想だった。 DとEがやけに最近余裕そうな顔をしていると思ったら、 ある事無いこと担任にチクって、 俺たちを完全に悪者にしていたのだ。 そして担任は、 DとEをこれから呼ぶから、 お前たちは2人に謝罪しろと言い出した。 俺もAもBもCも相当ムカついたが、 まずは誤解を解かないといけないので、 担任にあの日あった事を、 すべてありのままに話した。 が、まったく取り合ってくれない。 挙句に、 「D君とE君が嘘をついているとでも言うのか!」 と逆切れし始めた。 どうやら、 こっちの話ははじめから聞く耳持たないらしい。 それどころか、 謝罪しないなら内申にも響くし、 親を呼んで生徒指導をするとまで言い出した。 その一言で俺たちも完全にぶち切れ 担任と口喧嘩になり、 「親呼ぶなら呼べば良いじゃないですか!」 と捨て台詞を残して、 そのまま生徒指導室を出た。 翌日、 なぜか親は呼ばれなかったが、 俺たちは学校に再び呼び出された。 生徒指導室に入ると、 担任はみょうにヘラヘラしていて、 昨日あれだけ喧嘩したのに、 やけに馴れ馴れしい。 担任の話はこうだった。 「D君E君とお前たちの意見に行き違いがあったらしいから、 昨日の話はなかった事にする。 ただ、 2人を肝試しに連れて行った責任はお前たちにもあるから、 これはお前たちが責任もって返してきてくれ」 そういうと、 担任は例の桐の小箱にはいった懐中時計を長机に置いた。 意味が解らない。 後から知ったのだが、 こんな事を言い出した事の顛末はこうだった。 予想通り、DとEのところに、 あのガリガリに痩せた喪服の女が現れたのは確実のようだ、 そして、恐らくCがあったの以上に酷い目にあったのだろう。 ビビりまくったDとEは、その日の朝に、 駅の近くにある質屋に懐中時計を持ち込んで売ろうとしたのだが、 当然の事だが店主に怪しまれ、それで騒ぎとなり、 担任やホームステイ先の人たちまで質屋に呼び出され、 逃げられなくなって事の真相をゲロったらしい。 それで今、 それでも2人の肩を持とうとする担任が、 こんな都合のいい話をし始めたと。 当然の事だが、 ここまでバカにされて言う通りにする義理など俺たちには無い。 Aがキレ気味に、 「なら先生が返しに行けば良いんじゃないっすか、 俺たちがそこまでしてやる義理ないし」 というと、 そのまま生徒指導室を出て行ってしまった。 俺もBもCも顔を見合わせ、 Aのあとをついて生徒指導室を出た。 この後、 俺たちにはとくに何もなかったのだが、 3つ後日談がある。 まず一つ目。 担任のその後なのだが、 休みが明けると学校には来ておらず、 始業式では、 病気療養のため長期入院する事になったと言っていた。 あの懐中時計を持っていたのだから、 恐らく何かあったのだろう事だけは容易に想像が付いた。 何があったのかは解らないが、 学校にこれなくなるほどだから、 余程の事があったのだろう。 出家したなんて噂もあったが、 真相は解らない。 その後、 卒業まで担任は学校に戻ってくる事はなく、 結局別の教師が俺たちを受け持つ事になった。 ちなみに、 懐中時計に関しては、 その後どうなったのか完全に不明だった。 三つ目の後日談に関わるので後で書くが、 少なくとも空き家には戻されていなかったのが確実だからだ。 二つ目。 問題の留学生2人なのだが、 やつらは予定を切り上げて、 夏休み中に母国へ帰国した。 で、 その見送りに生徒会の役員が何人か行ったらしいのだが、 そいつらの話だと、 DとEは明らかに様子が変で、げっそりとやつれて、 常に周囲をキョロキョロと挙動不審に見ていて、 ちょっとした物音にも過剰に反応したとか。 そして、なぜか2人とも、 両手をぐるぐる巻きに包帯で巻いていたらしい。 あと、 ホームステイ先の家もかなり異常なことになっていて、 なにか建物中から線香のような臭いがたちこめ、 玄関のところにはあからさまにでかでかとお札が貼ってあり、 明らかに家そのものに何かあったのは確実だったとか。 それと、DとEは両親が迎えに来ていたのだが、 それ以外に首からロザリオ?を下げた 神父か牧師のような人が付き添っていて、 一緒に車に乗って帰って行ったそうだ。 ちなみに、 その牧師か神父のような人も、 日本語が通じていなかったっぽいので、 DとEと同じ国の人のようだったと言っていた。 三つ目。 俺は高校卒業後進学して 地元を離れたので知らなかったのだが、 今年のGWに戻ったときに、 あの空き家が道路拡張のために取り壊された、という話を聞いた。 そして、 同じく帰って来ていたAから聞いたのだが、 どうもAの中学校時代の友達がその解体に関わっていたらしく、 Aが変なことなかったか色々聞いていたらしい。 それで聞いた話によると、 解体中何度か『喪服を着た女』を見かける人がいたようで、 当時少し噂になったとか。 Aの友達も、 夕方帰る時に見かけたらしい。 そこで俺は、 あれ?と思ってAに聞いてみた。 「あのさ、俺たち、 あいつがガリガリに痩せてたから、 婆さんと見間違ったんだよな? でも話聞く限り、 容姿が違わないか?」 と。 すると、 Aもそれを不思議に思って友達に聞いたらしいのだが、 その友達曰く 「普通の女だった」 とかで、 「ガリガリでも老婆っぽくもなかった」 と、 その友達ははっきり言っていたのだという。 それと肝心の懐中時計なのだが、 友達曰く 「そんなものはなかった」 とのこと。 そういうものが現場で見付かれば普通は話題になるのだが、 誰もそんな話はしていなかったし、 床の間のスペースや箱などは珍しいつくりだったので、 友達も覚えていたのだが、 「中は空っぽで何も入っていなかった」 との事だった。
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