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親父の業
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ひとつ昔の話を書かせてもらいます。今から20年位前の話。俺はその時26歳のサラリーマン。その日、母から連絡があって、親父の調子が悪くて病院に入院したらしい。お見舞いもかねて、久しぶりに実家に帰省する事にした。家から実家までは、だいたい2~3時間で帰れる。適当に2~3日分の着替えと荷物を持って車に乗った。家を出たのが、だいたい夜の12時ぐらいだったはず。車を走らせて40分くらいたった時、俺は国道から道を抜けて田舎道を走っていた。 なんとなく、ぼーっと走っていると、途中で車が捨てられていた。たぶん廃車だろう。塗装は剥げて、あちこち錆びだらけだった。何気なく見たら、中に男がいた。「えっ?」と思って、道に車を停めて、道を歩いて戻って中を確かめたら、確かに男がいたんだが、それは『男の人形』だった。俺は少し落ち着いて、まじまじと男の人形を眺めていた。その人形は本当に良くできていて、店頭に飾ったりしている、無機質な感じの人形じゃなくて、いうなれば、とてもうまくて生々しい絵を人形にした。見た時はそんな印象だった。それで、俺は芸術には興味ないんだが、その人形に惹かれてしまって、というか魅了されていた。世界中の美女よりこの人形が美しい。そんな風に思っていた。そして、気味の悪いことに、俺はそれを持ち帰ろうと思って、車に乗せて実家に帰った。実家も近くなって、そろそろ田舎道を抜けようとした時に、「すいません、×××××…(よく聞き取れなかった)」という言葉が聞こえた。「あ?え?」おれは困惑して、周りを見たが誰もいなかった。弱々しい男の声だった。空耳だろうと思い、気にもしないで家に帰った。家に帰ったら母は寝ていて、実家は静かだった。母には悪いが、家に入って起こした。母はとてもびっくりしていた。「何もこんな夜中に帰ることは無いでしょ!」「ごめん、休みが少ししか取れなかったから、急いで準備してきた」それで、俺は自分の部屋で寝る事にした。朝、俺は母と一緒に病院に行った。親父は急に倒れたらしい。それで、特に異常は無いが、何故か体の調子が悪いらしい。親父は元々ネガティブな考えの持ち主で、たぶん『病気は気から』という言葉があるように、本人がまだ本調子じゃないと思い込んでいるんだろうって思った。適当に励ましの言葉をいってやって、実家に戻った。家に戻ると、廃車で見つけた人形のことを思い出して、俺の部屋に運んで飾っていた。さすがに、裸のまんまの人形を置いていたらただ変態だから、俺の服を着せてやった。それから特にすることもなく、夕方ごろにもう一度病院にいった。病室で、母と親父が何か真面目に話をしていた。俺が入ってくると、急に親父が「大事な話がある」と言ってきたので、また何かネガティブな事考えてるのかな、と思いつつ話を聞くことにした。「俺は、昔たくさんの動物たちを殺してきた。たぶん100はやっている」「は?何いってんのいきなり?気が違ったのか親父?」俺の言葉を流して親父は続けた。「昔、俺は、動物とか弱いものを虐めるのが好きだった。猫・犬・鶏を色んな方法で殺した。(ここから殺し方が入ったのではぶきます)…とにかく、俺は最低な奴だった」そこで母が、「私は知っていたけど、その異常な行動以外は普通の人で…それに、怖くて横から口を出せなくて、止めてあげることが出来なかったの…」「いつから、していたんだ?」「俺が子供のときから大学に上がるまでの間だ。その後は、やっと自分の行動に歯止めを掛けることができた。それからは、やっていない」「何でそんな事したんだよ?」「……」(何度聞いてもだんまりだった)「でも、何で今更そんな事いうんだ?わけわからん…」「3年ぐらい前から、殺した動物達が『迎えに来る』と夢に出てきた。それで、頭痛で倒れた日の夢で、動物達に『今日連れて行く』と言われて頭を捕まれたとき、俺の親父、つまりお前のおじいちゃんが動物達をはらいのけ、必死で説得してくれた。『孫とこいつを、最後にお別れをさせてあげて欲しい』『いや、今連れて行く』『頼む。最後の一言を孫に言わしてやってくれ』『…もう一度来る。その時はきかない』それで目が覚めた。それから考えて、母さんにお前を呼ぶように頼んだ。お別れを言いたくてな」「いや、3年の間そんな夢見ていたのなら、坊主にお払いでもしてもらえよ!」「俺は、ただ自分のために動物を殺していったから、これはしかたがない。悪いのは俺だからな。地獄行きは確定だ。そんなので坊主に頼めるか?『昔殺した動物達に呪い殺されそうです。死にたくないので助けてください』それは、いかんだろ…」「…今日は帰るから。ちょっと頭を整理したい…」それで、俺は実家に帰っていった。部屋に篭って考えていた。ふと、なんとなく部屋の人形を見ていたとき、気のせいかもしれないが、人形が「そろそろですね」と言いながら微笑んだ。俺は完全に混乱して、頭がイっちゃったのかなと、そのまま眠った。夜中、目が覚めた。とても嫌な予感がした。虫の知らせとなのかな。俺は病院にいった。親父の部屋にいったのだが、特に異常は無かった。まじでほっとした。涙がぼろぼろでた。本当に怖かった。落ち着いて、親父の部屋から出ようとしたとき、全身の毛が総立った。心臓の音もばくばくいっているのがわかる。部屋の左を曲がった廊下の奥のほうから、何かがくるのがわかった。霊感も無い俺だが、こいつはマジでやばいと直感で感じた。人形だった…俺は人形が歩いて来る中で冷静に考えていた。え?なんでこいつがいるんだ!?親父は動物に恨まれているんじゃないのか!?こいつが親父に何かしようとしていることは、なんとなくわかったが、でも、そんなこと考えているうちに、俺のそばまで人形が来ると、無表情な顔で、「僕は『うじおや』なんです。だから『てんさつば』を与えにきました」(『うじおや』『てんさつば』たぶんそう言っていた。何の事かわからないです)そいつは部屋に入って、動物の鳴き声みたいな声を上げていた。俺は体をなんとか動かして部屋を見たら、人形はいなくて、親父は普通に寝ていた。起こしたら、親父は「すまん、すまん、お前に本当にすまん…」次の日、親父は病院を散歩している時に、車に轢かれて死んだ。病院の散歩コースに車が突進して頭を潰した。車を運転していたのは母です。この後、母も1年後に親父を追って自殺するのですが、遺書に、『私も××(親父の名前)に毒されていたのでしょうか、動物を殺したことがあります。×××(俺の名前)本当にごめんね、次は私の所にきました。こんな親を許してください』親父の葬式の日の夜、家のどこかであの人形を見た。微笑んでいました。10年経った今は、俺は何ともありませんが、実家は捨てました。俺には、もう血縁はいないはずです。知っていたのが、父方のおじいさんだけですので。それに、この『恨み』が俺に来ないようにしたかったからです。100もの動物達の恨みは、こんなもんじゃ治まらない気がしますので。あの日以来、人形は見当たりません。どこかにいったんでしょう。最後に、俺は動物に嫌われます。犬にも鳥にも猫にも、いつも威嚇されます。一度、猫に指先の肉を噛み千切られたことがありました。本当にさきっちょですが。たまに、もう『恨み』は俺にも来ているんじゃないか、と不安になります。
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