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墓の中の家
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私の生まれ育った実家は、 お墓の中にありました。 とはいっても、 お寺さんではありません。 私の実家は、 玄関に入ると中央に廊下があり、 左右に部屋が並んでいます。 玄関から見て右手、 建物の北側が墓地であり、 一番奥の部屋が当時の私の部屋です。 窓の外には、 無縁仏の放置された墓石がごろごろしており、 窓から手を伸ばせば、 それに触れることが出来ました。 庭の造成でユンボが入り、 庭を掘り起こした時、 数々の墓石が出てきた事もありました。 またある日、飼い犬が骨を掘り当て、 それが人骨のように大きかったので、 お寺の住職に見せたところ、 紛れも無く人骨で、 警察も介入してきました。 骨はその昔、 この地に土葬された方のものだったらしく、 事件性はありませんでした。 しかしながら私の家族は、 そこに家を建ててからというもの、 数々の事件や事故が発生しました。 今現在、 私の家族はバラバラに生活しています。 前置きが長くなりましたが、 これは私の家族が皆で生活していた時に起きた、 不思議な体験です。 私が中学に入学して間もない頃、 弟が自宅前の路上で交通事故に遭いました。 その2年前にも私自身が交通事故に遭っていて、 生死をさまよった事があるため、 両親はことのほか心配して、 その日はつきっきりになったのです。 そして私は、 妹の面倒見るように言われ、 自宅で帰りを待っていました。 帰ってきた妹を早々に寝かしつけ、 自分の部屋でマンガ本を読んでいると、 異常なまでの眠気に襲われ、 そのまま寝てしまったのです。 どのくらい眠ったでしょうか? 気がついて起きてみると、 時計の針は午前2時を回っていました。 両親の部屋を覗いてみましたが、 誰も居ません。 「まだ帰ってないんだ・・ 弟は大丈夫かな・・・」 そう思って部屋に戻り、 汗ばんだ服を脱ぎTシャツに着替え、 トイレに行きました。 先にも話したとおり、 私の実家は建物の中央に廊下があります。 トイレは玄関の横北東の位置にあり、 窓からはやはりお墓が見えます。 廊下を歩いていくと、 後ろで誰かが横切った錯覚に捉われました。 振り返ってみましたが誰も居ません。 さっさと用を足し部屋に戻りましたが、 誰かが家の中に居るような気配です。 少し怖くなった私は、 部屋の電気を消し、 布団の中に潜り込みました。 するといきなり、 明かりがついたような感じが・・・ えっ?と思い、 布団から顔を出すと真っ暗! その直後、 体が硬直して動かなくなったのです。 金縛りだ! あせってもがきましたが、 身体は全然動かせません。 わずかに目が動かせるだけでした。 いつの間にか、 私の部屋の北側の窓の前に、 男の人が立ってました。 軍服姿で、 腰には刀を差していました。 怖いながらも見ると、 その男の人の顔には見覚えが無く、 その眼球全体が褐色がかっていて、 顔の色は血の気が無く、 青っぽいねずみ色をしていました。 唇の色と肌の色とは同じで、 皺の一本一本が深く多かったのを覚えています。 じっとこちらを見るその男の人には腕が無く、 下半身もおぼろで分かりません。 ただ、その褐色の眼球だけが印象的でした。 男の人は、 何も喋らずこっちを見ていただけでしたが、 しばらくして、 音も無く私の足元まで近づいて来たのです。 「助けて・・・お父さん・・・お母さん」 何度も叫ぼうとしましたが、 声を出すことが出来ません。 そのうちどこからとも無く、 「ここに住むな!」 「人形が邪魔だ!」 と声が聞こえてきました。 男の人の口は動いているのですが、 声は別の所から聞こえてきます。 また、 「ここに住むな!」 「人形が邪魔だ!」 と繰り返し聞こえる。 その声とは別の、違う声も聞こえてきました。 明らかに女の人と思われる声。 その声は、 男の人の左側のにある、 部屋の隅から聞こえてきます。 あまりに小さい声でしたので、 何を言っているかは聞き取れなかったのですが、 その声が聞こえたとたん、 私のまぶたは動くようになり、 体も動かせるようになったので、 急いで布団をかぶりました。 「男の人はまだいるんだろうか?」 震えが止まらず、 怖くて怖くて布団から顔を出せません。 どのくらいたったでしょうか、 玄関を開ける音がして、 両親が帰ってきました。 私は一目散に布団から飛び出し、 さっきまで男の人が立っていた場所を見ないようにして、 明かりのついている玄関に走りました。 そして両親に、 先ほど起きた事を話すと、 笑いとばすどころか、 見る見る顔が青ざめていきました。 今思えば、 両親も私と同じ経験をしていたのかもしれません。 「人形といえば・・・」 と母が、 寝室の奥から古い木箱を持ってきて、 私に見せてくれました。 箱の中には古い日本人形が入っており、 母が自分の祖母から頂いたものだったそうです。 そんな人形があることも知らなかった私は、 さっきの男の人の言葉を思い出し、 また怖ろしくなりました。 しかし、 祖母が亡くなる間際に、 母に 「この人形が、家族を守ってくれる」 という話をしてくれたと聞いて、 恐怖感も消え、 落ち着くことが出来ました。 弟も大事に至らずに済んだという話も、 その場で聞きました。 人形が私たち家族を守ってくれたのでしょうか? その夜私は、 母からその人形を借り、 枕元に置いて眠りました。 高校を卒業して家を出た私は、 それ以降不思議な事は起きていませんが、 知り合った霊感のあるという知人に、 「貴方の家には守り人形がいる」 と言われたことがあります。 両親や弟妹には、 その後も色々と災難や事故等があったのですが、 すべて大事には至らなかったです。 今現在は、 その土地に実家はありません。 時折、田舎に戻ると、 実家のあった前を通ることがあります。 そんな時、 あの日の出来事がはっきりと思い出されるのです。
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