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初恋
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幼い頃で記憶が曖昧になっているのもあると思うけど、 今でもあの光景は忘れらない。 見間違いだったとは絶対に思えない。 あの時はただワケが分からず、 ただただ怖かっただけだけれど、 後に、俗に言われる『曰く物件』だったことが判明。 そして、個人的にちょっと切ない思い出でもあり、 書き出したら長くなってしまいました。 幼い頃ゆえ不明瞭な部分もありますが、 ご了承ください。 たぶん3歳の頃、 家が古かったために完全に壊し、 同じ土地に再度新築で立て直すことになり、 1年か半年くらい、 建築作業の間は借家で暮らす事になった。 その借家というのは、 家を担当する大工(父の友人)が紹介してくれた不動産屋が、 超格安(そう聞いてる)で貸してくれたものらしい。 祖父、父、母、姉、自分と5人で暮らすには、 少々狭くて古めかしい家だったけれど、 特別な不自由はなく、 狭いながら楽しく暮らしていた。 が、家に慣れてくると大体の構造が分かってきて、 概観から見ても、どうやら屋根裏部屋があるらしい事が、 外から見える小さな窓からもわかった。 家の中からでも、 収納式の階段があるのも分かった。 しかし、使用された形跡は無い。 家財道具を借家の中に納め、 使っていないものが入った段ボール箱までひしめき合うため、 非常に家が狭くなっているのに、 なんで屋根裏を使わないのだろう?と疑問に思っていた。 そのことを聞くと皆、 「あの階段は急だから絶対に使っちゃダメ」 「屋根裏部屋は掃除してないからいっちゃダメ」 と、口をそろえた様に言う。 そうなると、好奇心旺盛な年頃としては、 秘密基地のような感覚でそこに行ってみたくなる。 ダンボールを何段か重ね、 収納された階段を引っ張り出すための紐を伸ばすと、 ぎぃっと大きな音を立てて階段が降りてくる。 折りたたまれていた階段は綺麗なもので、 埃なんかは積もっていなかったので、 そのまますたすたと上っていき、 天窓に手をかけた。 空けるにつれて、 蜘蛛の巣が張っているのなどが見えてくる。 そして、想像以上に薄暗い。 その時点で躊躇してしまったけれど、 窓のカーテンでも閉まってるんだろう。 それを開ければ明るくなる、と思い、 そのまま上りきる。 まず目に入ったのは、 埃・埃・埃。 すごい厚さ。 思わずうわぁ~と声を上げて見回すと、 薄暗い部屋の視界に人影が映る。 女の子? 髪の長い子で、 なにかぬいぐるみで遊んでいるようだ。 本来ならば、 この時点でおかしいことこの上無いのだけれど、 一時とはいえ慣れた土地を離れ、 幼馴染たちとも会っておらず友達がいなかったので、 ぜひとも声をかけたかった。 埃が舞い上がらないように、 静かにその子に近づいていく。 「ねぇ、なんでこんなところにいるの?」 なんて声をかけつつ。 しかし、彼女は答えない、というよりは、 聞こえているけれど、反応しないようにしているような感じ。 その子の隣にしゃがむ。 同い年くらいというのが分かった。 髪の長い子で、 ピンクの熊のぬいぐるみの腕を持ち、 いろいろなポーズをさせていた。 「僕この家に住んでるの」 「どこから来たの?」 「名前は?」 など声をかけるが、反応が無い。 こうも無視されるとさすがに、 感じわる~とか思っていると、 彼女がふと顔を上げてこちらを向き、 「私はめぐみ」 って紹介をする。 どきっとする。 彼女があまりにも可愛かった。 一目ぼれだったんだろう。 たぶんこれが初恋。 なぜこんなところにいるのかと聞けば、 お父さんに怒られて怖いから隠れている、ということらしい。 それからは、 取り止めの無い話をしていたと思う。 でも、彼女を目の前にすっかり舞い上がった為、 自分の話しかしていなかったと思う。 それでも、 彼女はうなずいたり微笑んだり。 一階の居間にある時計が時間を告げた時に、 祖父がそろそろ帰ってくると思い、 天井裏に行ったのがばれるので、彼女に別れをつげ、 また来ることを約束し、 そのまま一階に降りて階段をしまう。 手を振りながら微笑んだ彼女が忘れられない。 (思い出なので美化されてる部分もあるでしょうが) が、出す時は紐を引っ張ればいいのだけれど、 戻すには階段を押し上げる必要があり、 いくらダンボールを積み重ねても、 力がない上に必要な身長もないので、 戻すことが出来なかった。 このままでは祖父に怒られると思い、 ダンボールだけを片付け、紐をしまい、 少し落ちていた埃を片付ける。 そのすぐ後には祖父が帰って来たが、 階段が勝手に落ちてきたと説明をした。 何度もしつこく上には行ってないかと聞かれたが、 彼女と会えなくなるのが怖かったので嘘をついた。 もちろん彼女の話はしない。 階段が勝手に落ちてきたということではあぶないので、 と頑丈に閉められ、 引き出すための紐は取り外されてしまう。 その後、自分ひとりの時には、 なんども階段を出そうと試行錯誤を繰り返していたが、 それが出来ず、結局は家が完成し、 引越しする日が迫ってきてしまう。 引越しの日、 自家用車で借家と家を往復を繰り返して、 荷物を運んでいる時に、 自分ひとりが家に残ることになった。 特に暇を持て余している時、 ふと父の釣竿が目に入る。 伸縮自在で、 先っちょには糸を通せる枠が付いてる… これならばと、その釣竿を使い、 階段の紐を縛る部分に引っ掛けようとする。 引っ越しても会いたい。 別の場所でもあいたい。 どこに住んでるか知りたい。 もう一度彼女に会いたい。 せめてお別れだけでも言いたい。 階段を出したことで怒られるのもかまわない。 そんな怒られる時の事なんか 頭になかったかもしれない。 その一心で重たい釣竿を操り、 階段を引き出すことが出来た時は、 文字通り飛んで跳ねて喜んだ。 ばたばたと階段を上がり天窓を開ける。 かび臭いのも、誇り臭いのも気にならない。 彼女はいないのかと、 天窓から顔をだして見回す。 前の位置には彼女はいなかった。 そのまま首を回していき、 ちょうど階段を上って背後にあたる部分に顔を向けた時、 なにかがある? 目の前になにかがあるのが分かった。 近すぎて一瞬視点が会わなかったが、 すぐにそれが女性の顔だと分かった。 距離にして数センチ。 顔はぱんぱんに腫れ、 青く充血目から涙のように、 鼻から口から、 良く分からない半透明の液体が流れていた。 幼いとはいえ、 それが人間ではないと直感し、 悲鳴を上げることも逃げることもできず、 ただただ恐怖に固まる。 その女性が愛想笑いのようににやっと微笑むと、 「私の子に近づかないでね…」 と、ぼそっとつぶやく。 「わかったぁ~?」 この「ぁ」のところで、 糸を引いて大きく口が開いた時に、 前歯が粘液に包まれたまま抜け落ちるのが見えた。 目が覚めた時には、 「目が覚めた」 と叫ぶ姉の声が聞こえてきた。 どうやら、あの後階段からすべり落ち、 失禁しつつ白目を向いて気絶していたらしい。 打ち所が悪くてこうなったのだと思い、 急いで病院に向かうところだったらしい。 (けが人を動かさずに救急車、という考えはなかったようです) そのときの話をしても、 怖いテレビの見すぎだとか皆いっていたけれど、 目はみんな恐怖していたのを見逃してなかった。 失禁にしても、 階段から落ちてからではなく、 階段の天窓のあたりから失禁しており、 天井部屋を覗いた時のものであることが分かっていた。 誰一人天井部屋を覗いた事を咎める事もなく、 ただただ「忘れろ」といわれるだけで、 誰にも話してはいけない出来事として封印し、 つい2・3年前まで記憶から消えてしまいそうでした。 父が亡くなり、 その後祖父の葬儀にて写真の整理をしていると、 借家に引っ越した日の記念写真が出てきた。 それで、ふと幼い頃の思い出がよみがえってくる。 幼い頃から封印していた記憶なため、 あれは夢だったのかもしれないと思ったけれど、 その話をすると姉は、 「やっぱりおぼえてたか」 と言う。 家族の間でも、 誰にも話しちゃいけない話としてみんなが覚えていたようで、 父と祖父が本気でお払いを考えていた事などを、 面白半分に話していた。 あの家は、 『過去に子供が天井部屋で死に、 奥さんがその同じ部屋で首をつって死んだ』 という曰く付きの家で、 1階こそなにもないが、 『天井部屋は必ずなにかしら起こる』 といわれる場所だったそうだ。 家を建てたばかりということで、 できるだけ出費を抑えたかった両親は、 何度か一階で泊まったりし、 二階以外はまったくなにもないことを確認し、 それを承知で借りたそうだ。 めぐみという彼女のことも気になり、 借家の時に世話になった不動産屋に行くと、 暇だったのか、当時の記事をひっぱり出してくれた。 (聞かれたら答えなきゃいけないため、 そういう記事はスクラップしているそうです) それは引っ越す7年ほど前の記事で、 4歳になる子がなにかいたずらをしたのか、 父親に殴られ、そのまま天井部屋に閉じ込められたが、 翌朝そろそろいいだろうと様子を見た父親が、 死んでいるその子を見つけたというもの。 そして、さらにその1年後の記事。 その後両親は、 その家は引き払っているのだ。 が、その約一年後には、 『その母親がその天井裏で首をつって死んでいるのが見つかった』 という記事。 当時だれも借家にはおらず、発見が遅れ、 見つかった時には腐乱がひどかったそうです。 最重要視とはいえ容姿だけで惚れるということはなく、 これ以後一度も一目ぼれを経験した事が無く、 一目ぼれしたその子はそんなにかわいかったのか、 と思うと残念でなりません。 初恋は実らないって言うけど、こらねぇべ。
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