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子猫と灰色のソレ
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俺の家は祖父の代から自営業を営んでて、 今は父が店を継いでる。 田舎にありがちな地域密着型の小さな店。 金曜の夜、いつものように帰宅した俺は、 店の後片付けを手伝うべく、 家から200mほど離れたところにある店に向かった。 裏口から店に入ると、 父親がPCで事務処理をしていた。 「ただいま、お疲れ」 と声をかけると、 「お、○○おかえり。こっち手伝ってよ」 と返された。 いつものように適当にあしらいつつ事務所を出て、 店の中でテーブル等の片付けを行う母に声をかけつつ、 そちらを手伝う。 後片付けをしていると、 母の実家から従兄弟がやってきた。 いろいろとおすそ分けを持ってきてくれたらしい。 父はまだPCでの仕事が終わりそうにないというので、 俺・母・従兄弟の三人は、 しばらくの間片付けの手を休めて、 会話に花を咲かせていたんだが、 さすがに店をずっと開けておくわけにもいかないので、 兄には店裏のスペースに車を移動してもらい、 店の扉を閉めることにした。 自販機でみんなに飲み物を買おうと思った俺は、 母にそのことを告げて店の扉から出た。 母は了承すると、 俺が出た後そのまま鍵を閉め、 店の奥へと向かう。 俺は、裏から入ればいいわけだから、 閉めてもいいとはいえ、 さすがにすぐそこなんだから、 待ってて欲しかったなーと思いつつ自販機に向かった。 自販機の前で何を買おうか迷っていると声が聞こえた。 喋り声だが、 一人分の声しか聞こえない。 辺りを見回すと、 夜道を誰かが歩いている。 どうやら独り言のようだ。 この辺りは不審者が多い。 と言っても、 本当の意味で知らないような不審者じゃない。 というのも、 不審者の殆どは知能障害や精神障害で、 ずっと街中を歩きまわる人たちだ。 家が何処にあるのかは知らないが、 ずっと独り言を言いながら近隣の店やスーパーをただ巡る人や、 一日中公園にいる人。 たまに、公共の場だというのに…… といった感じのわいせつな行為で捕まる人もいる。 基本的には昔から同じ人の顔を見てきているため、 不審な人を見ても、 「ああ、またあの人か」 といった程度の認識だ。 話を戻そう。 俺がいるのとは車道を挟んで反対側の、 歩道の少し先に人影があった。 暗くて顔までは見えない。 さらに、そこから少し先の交差点にも誰か居る。 自転車に乗ってるが、 さすがにあの人に話しかけてるわけじゃないだろう。 距離がありすぎる。 だとすれば、やっぱり独り言か。 またあの人達の誰かだな。 そう思っていると、 不意に下から「にゃあ」。 少し驚きつつ即座に顔を下に向けると、 足元に猫がいた。 小さい。 子猫のようだ。 可愛い。 「なんだ猫か。 お前どこからきたの?」 と声をかけつつ、 当初の目的を遂行。 お茶やコーヒーを適当に購入して、 取り出そうと手を伸ばすと、 「にゃぁお」 と甘えた声を出して子猫が擦り寄ってきた。 全ての飲み物を取り出して立ち上がっても、 立ち去るどころか一歩も動く様子はない。 「野良ちゃんかな? ごめんね、今何も食べ物ないんだ。 またね」 と、逃げ出さないように優しく投げかけ、 店に戻ろうと歩き出す。 すると何故か、 その子猫がついてくる。 止まると止まる。 振り返ってその子を見ると、 その子も振り返る。 反則級の可愛さとはこのことだ。 裏口から店に戻ると、 すぐに母が 「やだ何この猫ちっちゃーい、可愛い!」 とヘヴン状態。 自販機のところで出会ってついてきたことと、 道すがらの猫とのやりとりを説明すると、 母と従兄弟は子猫に夢中になった。 飲み物のことなんて忘れて。 事務所の中に入れたことで、 子猫の容姿がはっきりした。 生後4ヶ月ほどくらいの大きさ。 灰色の長毛で、 手触りの良いふわふわの毛並み。 金の瞳。 首輪は無いが、 野良という感じではなかった。 子猫と遊ぶこと2時間ほど。 時間も時間だということで、 従兄弟が帰っていった。 父はまだPCに向かっている。 まだ終わらないのかと問うと、 「あと少しだから待ってて」 とのこと。 従兄弟が帰るまで遊んでいたためか、 子猫は俺の膝の上で眠っている。 母は事務所のテレビを見ている。 俺は、この子猫をどうするか考えていた。 毛並みや佇まいから迷子になった子猫だろうし、 とりあえず張り紙作って貼って、 近所の人に聞き込みして…… 迷子の子猫拾った場合でも、 警察っていくべきなのか? 飼い主が見つかるまでしっかり面倒を見るけど、 もし見つからなければそのまま飼い続けてもいいな。 でもこんな可愛い子猫だし、 飼い主も心配して探してるだろ。 そんなことを考えていると、 子猫が目を覚ました。 顔を擦って、伸びをして、 それから俺の指を舐める。 あまりにも可愛くて頭を撫でていると、 急に子猫が膝の上から飛び降り 裏口の方へ向かった。 裏口の扉をカリカリと引っ掻いているところを見ると、 外に行きたいのだろう。 「どしたー? ちゃんと飼い主さん探してやるから、 見つかるまでうちにいような?」 子猫を抱き上げてソファに戻ろうとする。 が、暴れて俺の手から抜けると、 再び裏口の扉をカリカリ。 どうしても気になると言わんばかりにカリカリ。 俺は、外に何かあったっけ?と思い、 確認のために子猫を抱いたまま裏口の扉を開けた。 何も無い。 畳んだダンボールと掃除道具があるだけで、 駐車場として使っている小さな空きスペースには父の車が一台、 それ以外は何もないし、誰も居ない。 生ごみの匂いもしない。 何も無いよな、 そう思っていると子猫が暴れだした。 先程よりも無我夢中というか、 鬼気迫る勢いで暴れだした子猫の爪が俺の手を引っ掻いた。 「痛ッ」 と声をあげたときには、 子猫は俺の手から逃れて、 夜の闇の中に消えていった。 心配になった俺はすぐに追いかけようかと思ったが、 見つかるはずもない。 父と母に説明して、 一応その辺を回ってくると言うと、 「心配だがどうにもできないよ。 父さんもう少しで終わるから、 それまで後ろの扉を少し開けて戻ってくるのを待ってみよう」 と言うので、 渋々同意した。 それから15分ほどして、 外で物音がした。 子猫が帰ってきたのかなと思った俺は、 ソファから立ち上がり裏口の扉のほうへ歩いて行った。 確かに下の方から物音がする。 なんだ、帰ってきたなら入って来ればいいのに。 それにしても賢い子だなと思いつつ、 さらに扉へ近づいた。 俺は扉を開けようと手を伸ばした、 その瞬間、 「○○!!!!!!!!」 後ろから母が、 ものすごく大きな声で俺の名前を呼んだ。 初めて聞くくらい大きな声だった。 その場でビクッと動きを止めた俺は、 その瞬間なにか嫌なものを感じて扉のほうを見た。 正確には、子猫が戻ってきたとき、 入ってこられるようにと開けておいた隙間を見た。 扉がもうちょっとだけ開いた。 よくわからない、人の形をした、 でも顔が無い、というか顔のイメージが今でも思い出せなくて、 頭があったのかどうかさえわからない、灰色のソレが居た。 俺はそれを見た瞬間、 頭の中も心の中もわけがわからなくなって、 そのただわけのわからない恐怖から 「うわぁぁぁあああああああああ!!!!」 と叫んで、 後ろに飛び下がった。 背を向けて逃げ出したかったが、 母が後ろから抱きしめてきた。 それで少しだけ元に戻った。 父と母を店のほうに連れて逃げようと思った。 そう思って父に声をかけようとした瞬間、 猫の鳴き声が聞こえた。 「にゃあ」とか「にゃぁお」じゃない、 それ以前に子猫というより大人の猫のような、 「フギャァァアオッ!」 とかそういう、 俗にいう喧嘩をしているときの猫の声がした。 ほぼ間を置かずに、 「ウゥゥッ!ミギャァ!」 と再び猫の声がした。 噛み付きながら喋ってるような鳴き声だった。 気がついたら…… 覚えていないだけなのかもしれないし、 意図的に見ようとしていなかったのかもしれないが、 いつの間にか灰色の人の形をしたソレは、 隙間から見えなくなっていた。 猫の威嚇の声もしなくなっていた。 どれくらい経ったか覚えていないが、 いつの間にか後ろにいた父が、 青ざめた顔をしながら扉を開けた。 何もないし、誰も居ないし、子猫の姿もない。 あるのは畳んだダンボールと掃除道具。 空きスペースには父の車と自転車が止まっていた。
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