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彼女は時を超えて見守ってくれていたんだ
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個人的な話ですが、 ふと書き込もうと考えた俺の行動にもなにか意味があるのなら。 修士に進学した4月、 こんな俺にもはじめての彼女ができた。 相手は講座に配属になったばかりの4年生。 女子学生が少ない学科だったが、 その中でもこの講座は特に少ない。 過去にもほとんど女性がいなかったので、 彼女は当初、その存在だけで俺達を困惑させた。 前髪を野暮ったく切ったロングヘアーに、 度のキツイ眼鏡。 いかにも母親にデパートで見立ててもらいました、 というようなフリフリのロングスカート姿。 講座の連中は、 そろいもそろって自閉症気味のオタクばかりで、 女子学生が入ってきたというだけで、 もうどう対処して良いのか判らなかったようだ。 かく言う俺も、 当初はめんどくさいなあとしか思っていなかった。 新歓コンパの二次会に向かう路上、 眼鏡を外した彼女の素顔。 俺は古くさい言い回しだが、 視線が釘付けになった。 「こんな綺麗な娘だったのか」 いや、実際そこまでの美形ではなかったのかもしれない。 でも、俺には彼女が、彼女と並んで歩いているこの時間が、 まるで遠い過去から予定されていたような、運命的なものを感じた。 瞬間、恋に落ちていた。 「あ、あのさあ…」 「え?」 眼鏡をかけ直して振り向いた彼女に、 俺は自分でも予想のつかないセリフを放った。 「世界で一番、君が好きだ。たぶん、ずっと昔から…」 「はい。たぶん、わたしも…」 コンパの二次会をすっぽかして、 夜の街をなぜか手を引いて走った。 誰に追われている訳でもないのに。 女の子と付き合ったこともなかった俺は、 どこに行けばいいのかわからない。 駅前の喫茶店で夜の10時まで話し込んだ。 それが自宅生の彼女のタイムリミット。 駅のホームで見送る俺は、 胸が張り裂けそうだった。 「シンデレラだって門限は24時だろうがよ!」 人生、数式では定義できないものだと知った。 「コペンハーゲン解釈、ありゃ嘘だね」 「わたしも思ってた」 「エヴェレットにしても人生経験が浅い」 「多元宇宙論ね。解釈問題に立ち入ると先生が怒るわよ」 「君も俺も、世界で一人ずつだ。他にスペアはいらない」 世界は、この世界は、 俺が人生を賭けられると思っていた物理の真理よりも、 はるかに甘美な世界だった。 「このまま時間が止まればいい。 でも、時間の流れは過去も未来も定義に違いはない。 流れていると感じる我々に限界がある」 「はぁ。なんでこんなに好きなんだろ。 あなたと会えなかった世界なんて、 パラレルワールドにもあり得ないわ」 安アパートの、 通販で買ったソファーで彼女の肩を抱きながら、 時間の経つのも忘れて話しをした。 「高校まではずっと野球部だったけど。その頃の話でね…」 俺は高校までは野球漬けの生活だった。 進学校の弱小野球部、 3年間で公式戦では一度も勝てなかった。 それでも俺が部活を続けていたのは、 試合ではいつも、いや、日頃の練習でもなぜか俺達を見に来る、 野球好きらしい女の人の存在があったからかもしれない。 その人はいつも同じ格好をして、 俺達の試合や練習を見に来ていた。 不思議とチームメイトたちは気が付いていないようで、 俺が話題を振っても「何それ?」という具合。 黒のミニスカートにタンクトップ。 真夏でも紅いスイングトップを羽織って。 ショートの髪型とハイヒールが『大人の女』そのもので、 俺はずっと気になっていた。 「たぶん、高校のOGなんだろうけど。 でも、俺らの高校が共学になったのはそれほど前じゃないし、 野球部はずっと弱小チームだったから、わけが判らないのだよなあ。 OBの話でも女子マネージャーはいなかったって言うし、 単なるファンなんてありえないのだけどなあ」 「あなたの憧れのひと?もしかして初恋のひと?」 「そんなんじゃないんだけど。たぶん、君に似ていたんだよ」 「わたしと出逢うよりず~っと前でしょ!」 「それが時間的に前の事象だと決定できるの?」 「物理の話してるんじゃないでしょ! ふふっ。あなたは憧れてたんだ。そういうお姉さんに」 「お、俺はそんなこと(野球部)しながら、 大学受験は大丈夫かクヨクヨしていたただの迷い子だったよ! 話しかける勇気もなかったさ」 夜中に電話で起こされた。 なにか気がかりな夢をみていた記憶はある。 起きたときに涙で視界がぼやけているのが、 自分でも訳が分からなかった。 『おい!そこを動くな! 今から行くから、とりあえず目を覚ましておけ!』 友人のSからの電話だった。 Sが部屋に来てからの記憶は飛んでいる。 霊安室でベッドでもない妙な台に横たわった彼女は、 いつもの姿ではなかった。 黒いミニスカート、紅いスイングトップ、ショートヘアー、ハイヒール。 彼女の友人らしい女の子が、 泣きじゃくりながら俺を責める。 いや、俺を責めていたわけではないのだろう。 「あなたに、あなたに見せるんだって言って。 私とこの服買いに行ったのよ!」 「眼鏡がないと…きっと困ってる」 「なに言ってるの!?あなたのために…」 彼女は友人と別れた後、 自宅と目の鼻の先の路上でクルマにはねられたらしい。 運転していた若造は一旦逃げたが、 仲間に付き添われて警察に出頭していた。 俺はその後もふらふらと生きている。 大学院は中途で辞めた。 今は普通のサラリーマン。 物理のブの字も想いだしはしない。 半袖ワイシャツでの営業の途中、 暑さにたまりかねて飛び込んだ喫茶店で甲子園の中継を見る。 なにをしても中途半端だった俺の、 もうどうでもいい人生で、 2番目に大切だった思い出。 高校の野球部。 彼女は時を超えて見守ってくれていたんだ。 知り合う前から、ずっと…。
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切ない不思議な話だな
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