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とある『牛の首』のお話
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「牛の首」というタイトルの話があると聞き、昔、奈良のひいじいちゃんから聞いた話を思い出しました。 この話にタイトルはありませんが、もしかしたら関係があるのでしょうか?誰も「牛の首」の話を教えてくれないので、どんな話か知りませんが、もしかして同じ話だったらゴメンナサイ。-------------------------------戦前のある村での話だそうです。 その村には森と川を挟んだところに隣村がありました。(仮に「ある村」をA村、「隣村」をB村としておきます。 )B村はいわゆる部落差別を受けていた村で、A村の人間はB村を異常に忌み嫌っていました。ある朝、A村で事件が起きました。 村の牛が1頭、死体で発見されたのですが、その牛の死体がなんとも奇妙なもので、頭が切断され消えていたのです。その切り口はズタズタで、しかし獣に食いちぎられたという感じでもなく、切れ味の悪い刃物で何度も何度も切りつけ、引きちぎられたといった感じでした。 気味が悪いということでその牛の死体はすぐに焼かれました。しかし、首のない牛の死体はその1頭では終わりませんでした。 その後次々と村の牛が殺され、その死体はどれも頭がなかったのです。普段からB村に不信感を抱いていたA村の人々はその奇妙な牛殺しを「B村のやつらの仕業に違いない」とウワサし、B村を責めたてました。 しかし同じ頃、B村でも事件が起きていました。村の若い女が次々と行方不明になっていたのです。 いつもA村の人々から酷い嫌がらせを受けていたB村の人々は、この謎の神隠しも「A村のやつらがさらっていったのに違いない」とウワサし、A村を憎みました。そうしてお互い、村で起きた事件を相手の村のせいにしてふたつの村はそれまで以上に疑い合い、にらみ合い、憎しみ合いました。 しかし、そのふたつの事件は実はひとつだったのです。ある晩、村境の川にかかった橋でB村の村人たちが見張りをしていました。 こんな事件があったので4人づつ交代で見張りをつけることにしたのです。夜も更けてきた頃、A村の方から誰かがふらふらと歩いてきます。 見張りの男たちは闇に目を凝らしました。そして橋の向こう側まで来たその姿を見て腰を抜かしました。 それは全裸の男でした。その男は興奮した様子で性器を勃起させています。 しかしなにより驚いたのはその男の頭は人間のそれではなく、牛の頭だったのです。牛頭の男は見張りに気付き、森の中へ逃げ込みました。 牛頭の男はA村でも牛の番をしてた村人に目撃されていました。その牛頭の男こそ、ふたつの事件の犯人に違いないと、A村とB村の人々は牛頭の男を狩り出す為、森を探索しました。 結局牛頭の男は捕まりませんでした。・・・いえ、実際には捕まっていました。 しかし、男を捕まえたA村の人々は彼を隠し、みんな口を揃えて「そんな男は存在しなかった」と言い出したのです。A村の人々のその奇妙な行動には理由がありました。 A村の人々は牛頭の男を捕まえました。その男は実際に牛頭なのではなく、牛の頭の生皮を被った男でした。 A村の人々は男の頭から牛の皮を脱がせ、その男の顔を見て驚きました。その男はA村の権力者の息子だったのです。 この男は生まれつき、知的障害がありました。歳ももぅ30歳ちかいのですが、毎日村をふらふらしてるだけの男でした。 村の権力者である父親がやってきて問い詰めましたが、「さんこにしいな。ほたえるな。 わえおとろしい。あたまあらうのおとろしい。 いね。いね。 」と、ワケの分からないことばかり言って要領を得ません。そこで男がよく遊んでいた、父親の所有している山を調べると、女の死体と牛の首がいくつも見つかりました。 異常なのは女の死体の首は切り取られ、そこに牛の首がくっついていたのです。男は、B村から女をさらい、女の首を切り取り牛の首とすげ替え、その牛頭の女の死体と交わっていたのです。 権力者である父親は息子がやったことが外に漏れるのを恐れ、山で見つかった死体を燃やし、A村の村人に口封じをし、村に駐在する警官にも金を渡して黙らせました。そして息子を家の土蔵に閉じ込め、その存在を世間から消し去ったのです。 しかし、村の女たちが行方不明のままのB村の人々は黙っていません。特に、あの夜実際に牛頭の男を見た見張りの4人は、「牛頭の男など存在しなかった」と言われては納得いきません。 村人みんなで相談して、その4人が警察に抗議に行くことにしました。次の日、川の橋に4人の生首と4頭の牛の生首が並べられました。 A村の人々は真実が暴露されるのを恐れ、B村を出た4人を捕らえ、真実を知っているにも関わらず、B村の4人に全ての罪をかぶせ、私刑(リンチ)し、見せしめに4人の首をはね、さらし首にしたのです。一緒に牛の生首を並べたのには、「4人が牛殺しの犯人である」という意味(もちろんデマカセではあるが)と、「真実を口外すれば同じ目にあうぞ」という脅しの意味がありました。 この見せしめの効果は大きく、B村の人々はもちろん、A村の人々自身も「この出来事を人に話せば殺される」と恐れ、あまりの恐怖にこの事件については誰も一言も話そうとはしなくなりました。ふたつの村の間で起きたこの出来事は全て村人たちの記憶の奥深くに隠され、故意に忘れさられ、土蔵に閉じ込められた男と一緒にその存在自体を無にされたのです。 --------------------------------これが私の聞いた話です。これが果たして実話なのか何処の話なのかは知りません。 ひいじいちゃんももう居ないので今となっては知りようがありません。もちろんひいじいちゃんに聞いたのは十何年も前で、記憶も断片的ではありましたが、なるべくストーリーとして読めるようにまとめてみたつもりです。 この話を聞いたときはスゴイ嫌な感じがしました。なんでこんな話を聞かされたのかも覚えてません。 ひいじいちゃん、ちょっとボケてたのかも。年月が経って、自分の記憶の中でいくらか話を書き換えてるところもあるかもしれません。 正確ではないところは許してください。ごめんなさい。 だけど、「さんこにしいな。ほたえるな。 わえおとろしい。あたまあらうのおとろしい。 いね。いね。 」という男の言葉だけは変に覚えていました。意味は未だに分からないけど。 「牛の首」と違って、「あまりの恐怖に聞いた人が死ぬ」「話した人には呪いが」なんていう怪談的な要素はありませんが、「この真実を他言すると殺される」という村人たちの恐れが現代まで残って、「聞くと死ぬ」という風に形を変えたと考えると、案外これが元ネタなのかもしれません。といっても「牛の首」の話自体をちゃんと聞いたことがないのでなんとも言えませんが。 いかがでしょう?
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