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幽霊を一度も見た事が無いワイが体験したオカルトな出来事で打線組んだ

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  • 幽霊を一度も見た事が無いワイが体験したオカルトな出来事で打線組んだとは

    N 1 (電撃コミックスNEXT)
  • 幽霊を一度も見た事が無いワイが体験したオカルトな出来事で打線組んだ。

    1(中)同じ顔
    2(二)色の付いた光の玉
    3(遊)魔のカーブ
    4(一)へんたいさん
    5(右)かーちゃん
    6(三)不登校
    7(左)指輪
    8(捕)弟からの電話
    9(投)緑髪の女

    一つずつ話してくで。


    1(中)【同じ顔】

    ワイは今でも3歳くらいの時の記憶がある。

    一番古い記憶は雪が降る冬の寒い日に父親が躾と称し、
    半裸でワイを外に放り出した日の事を今でも覚えている。


    次に古い記憶はワイが5歳くらいの時の記憶だ。

    ワイには歳が近い妹が居る。

    ちなみに顔はワイが父親似で
    妹はマッマ似なので顔はあまり似ていない。

    ある日の夜、
    妹と一緒にベッドに入って居ると妹がワイに質問してきた。

    妹「おにいちゃんのよこに
    おにいちゃんとおなじかおのおんなのこがいるけどだれ?」

    妹は何も無いワイの背後を指差して
    不思議そうな顔で何かを見ていた。

    ねぇねぇと聞いてくる妹を叩いて黙らせて
    ビビりのワイは妹にピッタリと近づいて
    その日は必死に眠った。

    翌日、
    ワイは妹から言われた話をマッマに話すと
    マッマはかなり驚いていた。

    マッマ「実はね、本当ならワイには
    お兄ちゃんかお姉ちゃんが居たかもしれないのよ。」

    マッマ「でもお腹の中で死んじゃって……。」

    当時のワイはまだ子供で
    あまりその話がどんな事だったのかは理解出来なかったが
    マッマが泣いているからそれは悲しい事なんやなと思った。

    そして幼いながらにワイは漠然と
    妹はワイには見えない何かが見えているんだと何故か確信した。

    それからしばらくワイは夜、
    一人でトイレに行けなくなった。

    ワイはビビりである。

    そしてワイは見栄っ張りでもあったので
    絶対におねしょはしない!お兄ちゃんだから!
    という謎の自分ルールを守る為に
    夜、トイレに行きたくなったら
    妹を無理矢理叩き起こしてトイレまで付いて来るように
    しばらくの間、命令し続けた。

    見栄の為に妹を頼る時点で既に支離滅裂だし、
    何より妹はワイには見えない何かが見えている。

    もしトイレに行く途中でおばけが居るとか言われたら
    怖すぎてトイレに行けなくなり、
    ワイはおねしょお兄ちゃんになってしまうだろう。

    だからワイは何か見えても
    お兄ちゃんにはもう絶対に言うな!
    と半泣きで妹に言い聞かせ、約束させた。

    しばらく経ち、
    やっとまた夜に一人でトイレへ行ける様になったワイは
    ずっと気になっていた事を妹に聞いてみた。

    ワイ「ねぇ、お兄ちゃんに似た女の子って今、
    どんな顔してるの?」

    妹「んー、わらってるよ!」

    その時は居たかもしれないお姉ちゃんの分まで
    ワイが妹に優しくしなきゃ!と思ったが
    小さい頃のワイは暴虐無人で
    次の日にはすっかりその思いを忘れ、
    妹を子分の様に連れ回しては滅茶苦茶に扱ってた。


    2(二)色の付いた光の玉

    妹はたまに何も無い空中を手で払うような仕草をしていた。

    ある時、
    祖父母の家で妹は火が付いたように
    泣きながら祖母の近くで必死に腕を振り回していた。

    マッマがなだめてどうしたのか
    妹に聞いても妹は泣き叫ぶばかりだった。

    泣き疲れて眠り、
    妹が目を覚まし落ち着いてからマッマが再び、
    泣いていた理由を聞くと
    妹は思い出したようにまた泣き出す。

    妹「ばぁちゃんのからだにわるいくろいたまがはいってく!」

    何度も何度も妹は悪い黒い玉が!と泣き叫んでいたが
    ワイには意味が分からずに困惑するばかりだった。

    妹曰く、
    バッバの胸に黒い玉が入ろうとしていたのを
    妹は防ごうとしていたのだが
    黒い玉はバッバの身体に入ってしまったらしい。

    マッマが黒い玉の事を妹に聞いても
    妹はうまく説明が出来ないようだったが終始、
    黒い玉は悪い奴!と怖がり、泣くばかりだった。

    後日、
    ワイは妹が何も無い空中を
    手で払うような動きをまたしていたので
    黒い玉の事を聞いてみると
    どうやら妹はたまに光るフワフワした玉のようなものが見えるらしい。

    白い光の玉は良いヤツで
    黒い光の玉は悪いヤツ。

    他にも緑や黄色の光の玉も見えるようだが
    他の色についてはよく分からないと妹は言っていた。

    ワイはどうして妹が白い光の玉がいいヤツで
    黒い光の玉は悪いヤツだと分かるのかと聞くと
    妹は以前、黒い光の玉がワイの身体に入っていくのを見た後、
    ワイが病気(水疱瘡)になったからと言っていた。

    他にも腕に黒い光の玉が入っていった時は
    ワイが金網に腕を引っ掛けて怪我をしたりと
    黒い光の玉が見えた時は良くない事が起きるので
    妹は黒い光の玉=悪い奴だと思うようになったらしい。

    因みに白い光の玉は
    黒い光の玉が身体に入ろうとすると守ろうとするみたいに戦って
    黒い光の玉を追い払うから
    白い光の玉=良いヤツだと妹は認識しているようだった。

    じゃあ緑と黄色の光の玉は何?
    と妹に聞くと妹はよく分からないと答えた。

    たまに黒い光の玉を
    緑や黄色の光の玉が追い払う時もあるみたいだけど
    黒い光の玉と合体して消えたり大きくなったりしたりと
    妹自体、あまり分からない様子で
    その説明を受けたワイも全く理解出来なかった。

    とりあえず幽霊じゃないから怖くないな!
    と思っていたワイだったが
    数週間後に祖母が肺を悪くして入院した。

    ワイは妹にもし黒い光の玉がワイに入ろうとしていたら
    絶対に追い払って!と半泣きで妹に命令した。

    でも怖いから見えても絶対にお兄ちゃんには言うなよ!
    と何度も念押しした。


    3(遊)魔のカーブ

    祖父母の家に向かう途中の道で
    必ず妹が泣き出す場所がある。

    そこは見通しが悪いカーブで
    地元でも事故が多発する場所として有名だった。

    そのカーブに近づくと
    妹は怖い怖いと毎回、泣き出す。

    妹がまだ赤ちゃんだった時からここの道に近づくと
    ぐずりだして大変だっとマッマは言っていた。

    毎回この道を通る度に泣き出してうるさかったので
    正直、ワイは鬱陶しく思っていた。

    ある日、
    あまりにも車内で泣き叫ぶ妹にブチギレたワイは
    泣く理由を問い詰めた。

    しかし妹は泣き叫ぶばかりで理由を言わない。

    言えよ!泣き止め!と何度もワイは妹を叩く。

    ガッキのワイ、カス!!!

    言わないと怒るぞ!と
    既にブチギレながら怒るワイに
    妹は言ってもいいの?
    と何度も泣きながら逆にワイに聞いてきた。

    言えやー!と
    なかなか話し出さない妹の頭を叩いていると
    遂に妹は限界を迎えたのか
    泣きながら叫び出した。

    妹「くろいひかりのたまが!
    くろいひかりのたまがいっぱいあるのぉ!」

    その日から魔のカーブに近づくと泣き出す妹
    +その妹を見て恐怖するワイで車内が動物園状態になり、
    暫くしてマッマは祖父母の家に行く道を変えてくれた。

    その後、
    ワイが小学校の高学年くらいの時に授業で
    昔、この辺りに防空壕があった事を知る。

    そこは丁度、魔のカーブがある場所だった。


    4(一)へんたいさん

    妹は小さい時、
    舌ったらずな話し方だった。

    何度教えても
    『ヘリコプター』を『へこぷたー!』と言ったりしていた。

    ある日、
    家で妹と遊んでいると
    急に妹は怯えて怖がり、泣き出した。

    人形を使ってヒーローごっこをやっていた最中、
    悪者役の怪獣(妹)が途中で抜けてしまったので
    ヒーロー(ワイ)は激おこだった。

    続きはよやるぞ!
    とワイは妹に怒鳴るが
    妹は怖がって泣くばかり。

    ワイ「何が怖いんだよ!?」

    ブチギレて妹に問い詰めると
    妹は窓を指差す。

    妹「ぼうしをかぶったひとがこっちみてるの!!!」

    ワイも窓を見る。

    窓は閉まっていて外の様子は全く見えない。

    でも妹は窓を指差し、泣き続けている。

    ワイはすぐに妹の手を引いて
    ダッシュでマッマの居るキッチンへと移動した。

    ワイはすぐ、
    マッマに誰かが窓から覗いていると話し、
    外を確認して貰う。

    再び遊んでいた部屋にマッマと戻ると
    マッマは人影さえ映っていない窓を見て、
    誰も居ないから大丈夫だよとワイと妹の頭を撫でた。

    安心させる為にマッマは窓を開け、
    誰も居ないから大丈夫と再度、説明してくれた。

    後日、テレビを見ている妹が
    あー!と声を上げた。

    妹「へんたいさん!へんたいさん!」

    興奮した様子で
    テレビに映る軍服を着た人を指差す妹。

    妹「このまえまどからみてたひと!」

    ビビりのワイはそれから暫く、
    窓に近付けなくなった。


    5(右)かーちゃん

    ワイが小学生になったくらいの時に
    マッマのお腹が大きくなった。

    赤ちゃんが居るとマッマに教えられ、
    よく妹と二人でマッマのお腹に話しかけて居たのを覚えている。

    妹は何度教えても、
    赤ちゃんを舌ったらずな感じで
    『かーちゃん』といつも呼んでいた。

    ワイは妹よりも
    一緒に遊べる弟がずっと欲しかったので
    まだ性別が分からない頃からしつこくマッマに
    ねぇ?弟?と何度も何度も聞いていた。

    マッマはまだ分からないよーと言っていたが
    妹は何故か、かーちゃんは弟だよ!と笑って
    マッマのお腹に話しかけていた。

    それから暫くして
    ワイはまたお兄ちゃんになった。

    産まれてきたのは弟だった。

    名前の一文字目を取ると
    『か』ーちゃん。

    妹はお腹に居る時と同じように
    今でも弟をかーちゃんと呼んでる。

    ワイが大人になってから
    たまたま路肩で怪しい姓名判断士を見かけた時の話。

    正直、ワイは姓名判断なんて胡散臭いと思いながら、
    冗談半分にからかうような気持ちで
    近々、子供が産まれると嘘を付いて占って貰った。

    ワイの名前で。

    占い師「……もしこの名前を長男に付けようとしてるなら
    絶対に辞めた方が良い」

    占い師「考えられる限りの中で一番最悪なくらい良くない。
    女運も壊滅的に悪い。
    もし名前に拘りがあるにしても
    長男にだけは絶対に付けては駄目」

    占い師「全体的に悪いけど
    特にこの名前だと長男は家を守らず、
    必ず外に出て行き、家が壊れる」

    話を聞いたワイは動悸が止まらなかった。

    あまりにも今のワイに当てはまり過ぎて
    軽く恐怖すら覚えた。

    占い師「他に考えている名前の候補はある?」

    嘘で子供の名前なんて最初から考えていなかったので
    テンパってワイは弟の名前を書いてしまう。

    占い師「あー」

    驚いたように何度も占い師が頷く。

    占い師「凄く良い。
    長男に付けるのはもちろん、
    例え長男以外だったとして家を守る役割をしてくれる」

    占い師「代案が出ないくらい
    姓名判断的には文句無しの名前だと思うよ」

    偶然なのか必然なのかは分からないが
    その時にワイは
    直感的に改めて妹の不思議な力をまた実感した。


    6(三)不登校

    弟が産まれてから数年後に両親が離婚した。

    DVもあったので親権はマッマに。

    だが父親は長男で
    その長男であるワイだけは
    田舎特有の家督重視な習わしを持つ父方の祖父母が手放したくないと
    かなり揉めたようだった事をワイは後に知る。

    ワイ自身、
    暴力を振るう父親が大嫌いだったので
    初めからマッマについて行くと決めていた。

    暫くはマッマの祖父母の家で暮らして居たが
    離婚を含めた環境の変化が原因なのか
    小学校低学年の妹はかなり情緒不安定になり、
    学校に行くのを嫌がるようになった。

    ワイは片親だからと
    周りから言われないように学業を頑張ったが
    学校に行かない妹に次第にイライラを感じていた。

    元々、妹はアホなのか
    ワイはいつも妹の宿題に付き合い、
    勉強を教えていた。

    妹「はぇー、おにいちゃんすごい!」

    ワイ「先生の話を聞いてれば
    テストなんて100点取れて当たり前や!」

    ワイは通知表に毎回、
    授業中もっと落ち着きましょう(うるさい)と書かれていたが
    妹も同じ様に授業に集中しましょうと書かれていた。

    妹は
    口から産まれたんじゃないかと思うくらい良く喋るワイと違って
    物静かで口数も少ない。

    大らかでボッーとしてる事が多かったので
    ワイとは違った意味で授業に集中していないんだなと
    ワイは妹のお世辞にも良いとは言えない通知表を自分の物と見比べて
    悦に浸っていた。

    妹が不登校になって2週間くらいが過ぎた頃、
    遂にワイはこのままではワイまで馬鹿にされる!
    という身勝手な焦燥感から
    無理矢理、妹を学校に連れて行こうとした。

    妹が小学校に上がった直後は兄貴風を吹かし、
    慣れるまでは登下校を共にし、面倒を見ていたが
    次第に妹と一緒に登下校するのが嫌になり、
    ワイは友達と通学するようになっていたが
    その日は嫌がる妹を怒鳴りながら準備させ、
    迎えに来たワイの友達と一緒に学校へと向かった。

    道中、
    もし誰か妹をいじめてる奴が居るなら兄ちゃんが守ったる!
    勉強が分からないなら兄ちゃんが教えたる!
    とワイはとにかく妹に言い聞かせた。

    ワイの友達と皆で学校に行くのが楽しいのか
    妹はまるで遠足に行くみたいに登校を楽しんでいた。

    だか、学校に近づくにつれて妹の表情が曇る。

    校門近くになると
    遂に妹は泣き出してしまった。

    ワイはなんだか恥ずかしさがあり、
    友達に先に学校に行って!と伝えてから、
    しゃがみ込んで泣いている妹を無理矢理立たせて
    職員玄関のある裏門へと妹を引き連れて向かった。

    学校に入ると
    妹は火を付けたように泣き出し、
    ワイにはもう手が付けられなくなった。

    ワイ「大丈夫、兄ちゃんが居るから怖くない!
    ○○(妹)は何が怖いのか兄ちゃんに言え!
    そいつを直ぐに兄ちゃんがやっつけてやるから!」

    何度妹に言い聞かせても
    妹は怖いと繰り返し怯えるばかり。

    狼狽しながら
    ワイは助けを求めて職員室へ行こうとしたのだが、
    妹は怖い!怖い!と抱きついて離れないので
    妹を引きずるようにワイも半泣きで担任を頼る為に
    職員室へと続く廊下を歩いた。

    途中で妹がゲロを吐いて気を失った。

    ワイは妹が死んでしまったと思い、
    一人で半狂乱になりながら
    ダッシュで職員室へと駆け込んだ。

    最強に面倒な兄妹だったが
    ワイの担任は非常に優しかったので
    嫌な顔を見せずに、ゲロまみれで倒れる妹を保健室まで運び、
    マッマが迎えに来るまでワイと妹に付き添ってくれた。

    当然、ワイは
    家に帰ってからマッマにこっぴどく怒られた。

    流石に傍若無人のガッキワイも
    妹に悪い事をしたなと思い、
    ワイは妹に無理矢理学校に行かせた事を謝った。

    ワイ「兄ちゃんが妹をいじめるてる奴をやっつけてやるから!
    名前を教えて!」

    妹はありがとう、と言うばかりで
    ワイにそれ以上、話す事は無かった。

    それから数日後に親戚でも無い、
    ワイが覚えている限り、
    全く知らない見たことも無いおばさんが
    祖父母の家に来た。

    マッマはワイに
    その人はバッバが頼って呼んだ
    妹と同じ様に『視える人』だと説明してくれた。

    これからマッマとバッバがそのTさん(仮名)と話すから
    寝ている妹を見てて欲しいとワイは頼まれたが
    ワイも話を聞きたいとゴネゴネあんゴネてその話に同席した。

    Tさんは寝ている妹をしばらくジッと見つめた。

    Tさん「○○(妹)ちゃんは優しくて
    周りの良くないモノから頼られてしまう」

    Tさん「昔、犬を飼ってましたね?」

    Tさん「ちょっと前までは
    その子が妹ちゃんを良くないモノから守っていた様だけど……。」

    Tさん「今は家が変わって
    その子が妹ちゃんから離れてしまったみたい」

    Tさん「それで学校にいる良くないモノが妹ちゃんに近寄る様になって
    妹ちゃんは怖がっているようね」

    ワイは驚いたと同時に小さいながらも
    直感的にあぁ、この人は本物だと直ぐに感じた。

    もちろん、
    マッマもバッバも今日がこのおばさんとは初対面で、
    以前の家で犬を飼って居た事をこの人は知るはずもない。

    ポチ(仮名)は妹が小学校に上がる前に死んでしまったが
    老衰で立てなくなるまで
    ワイと妹がほぼ毎日散歩に連れて行っていた。

    特に妹はポチを可愛がっていて
    ポチも妹の姿を見ると
    ブンブンと尻尾を振って喜んでいたのをワイは覚えている。

    ワイより妹に懐いていたから
    ワイはあまり面白くなかったが。

    Tさん「もしその子の首輪が残っていたら
    小さく切ってキーホルダーにして妹ちゃんに持たせてあげて」

    Tさん「きっとまたその子が妹ちゃんを見つけて守ってくれるから」

    Tさん「ただその子もずっとこの先も一緒に居る事は出来ない。
    いえ、あまり長い間、止まらせては酷だから」

    Tさん「それまでに妹ちゃんが対処を憶えてくれれば大丈夫だけど……」

    Tさん「もしまた妹ちゃんが困ったらいつでも相談して下さい」

    ありがとうございます
    とマッマとバッバが礼を繰り返す中、
    ワイもTさんに話し掛けられた。

    Tさん「妹ちゃんも優しくて頼られるけど
    君は女の子に頼られるから気を付けなさい。
    妹ちゃんには優しくて、ね?」

    そのおばさんが帰り際に
    玄関でバッバが包んだ謝礼(お金)を渡そうとしているのをワイは見た。

    Tさん「そういう物(謝礼)は一切、受け取りません」

    それでもバッバは助けて頂いたからと
    割と強めに渡そうとしていたが
    最後までTさんはそれを受け取らなかった。

    Tさん「過去の私と同じ様に困った人が居たら
    ただお節介をしているだけなので」

    ワイはTさんが最後に言ったその言葉を
    今でもハッキリと覚えている。

    後日、
    マッマが妹に少し汚れた赤い革のキーホルダーを
    お守りと言って渡していた。

    ポチの付けていた首輪と同じ色のキーホルダーを
    ランドセルに付けてから
    妹は学校へまた通える様になった。

    それからワイはなんとなく、
    登校する友達グループに妹も加えて、
    一緒に登校するようになった。

    あの後に一度だけ妹に聞いた事がある。

    どうしてあの時、
    ワイに学校でお化けが見えて怖いって話さなかったのか?と。

    妹「おにいちゃん、
    なにかみえてもいうなっていったから……。」

    妹はどんなに怖くても昔、
    ワイが言った約束を律儀に守っていたのだ。

    ワイは急に情けなくなった。

    犬のポチでさえ、妹を守ろうとしているのに
    兄であるワイは何をしているんだ。

    離婚して今は小さい弟を除けば
    家に男はワイしか居ない。

    妹もマッマもワイが守らないと。

    その日、幼いながらもワイは決意した。


    7(左)指輪

    妹が小学校の高学年になった頃、
    また妹が学校を休みがちになった。

    お守りとして付けていたキーホルダーが
    いつの間にかどこかに消えてしまい、
    ワイも何度か一緒に探したが
    結局、キーホルダーが出てくる事は無かった。

    そんな時、
    入院している曽祖母が
    もうあまり先が長くないというので
    マッマとワイと妹はお見舞いに行った。

    曽祖母は随分前から施設に入っていて
    少なくともワイが記憶している限り、
    その病室でしか曽祖母を見た事が無かった。

    以前お見舞いに行った時、
    曽祖母はワイのマッマを見て
    バッバの名前を言っていた。

    ワイをひ孫と認識していないようで
    ワイら兄妹が病室を訪れても
    叔母や叔父の名前ばかり言っていた。

    そんな状態なので
    バッバやマッマはあまり曽祖母の話をせず、
    お見舞いに行く回数も非常に少なかった。

    ワイは子供ながらになんとなく、
    バッバやマッマが曽祖母を居ないものとしているように感じ、
    曽祖母の事を深く聞く事は無かった。

    しかし、
    その日お見舞いに行った時の曽祖母は
    いつもと違っていた。

    もう話す力も残っていないはずなのに、
    妹を見るなりハッキリとこう言った。

    曽祖母「妹ちゃんだね。
    大丈夫、全部持ってくから、安心せい」

    曽祖母「部屋の茶箪笥の上を見なさい」

    マッマは酷く驚いていた。

    ずいぶん前から
    もうまとも話せる状態じゃなかった曽祖母が
    しっかりと妹の方を見て話していた。

    怖がる妹をワイは後ろから押し、
    曽祖母のベットに近づけて、
    二人で一緒に曽祖母の手を握った。

    曽祖母の手は細く冷たかったので
    ワイは手を摩るように動かす。

    妹も真似て、手を摩ると
    曽祖母は頷くように小さく頭を動かしていた。

    あのお見舞いから日がそれほど経たない内に
    曽祖母は亡くなった。

    マッマは病室で言われた通り、
    祖父母の家にある、
    以前曽祖母が使っていた茶箪笥を調べてまた驚いていた。

    マッマ「これね、マッマが小さい頃に
    おばぁちゃんがお守りだって渡してくれたのよ」

    聞くと
    その金の指輪は曽祖母の結婚指輪だったらしい。

    マッマも小さい頃は
    妹と同じように不思議な体験をしていて困っていたが
    曽祖母からこの指輪を渡されてから
    徐々にその不思議な体験が減っていったとか。

    ただ、
    曽祖母から譲り受けた物で大事にしていたはずなのに、
    ある日いつの間にかマッマの手元から指輪は消えてしまった。

    マッマもかなり探したようで
    何故今頃、こんな所から出て来たのかと酷く驚いていた。

    そんなこんなで曽祖母の遺言通り、
    その金の指輪は妹が持つ事になった。

    もちろん、サイズが全然合わないので
    紐でチョーカーのように妹は身に付けていた。

    マッマから聞いた(妹はワイに絶対話さないから)が
    どうやら曽祖母の金の指輪を持っていると
    怖いモノが近づかなくなるようで
    それから妹はまた学校に通えるようになったようだ。

    ワイは何かあったら
    妹から曽祖母の金の指輪を奪って身に付けようと思った。


    8(捕)弟からの電話

    あれから特に不思議な事が起きなくなった。

    マッマ曰く、

    マッマ「もう多感な時期を過ぎたから
    妹ちゃんはみえなくなったんじゃない?」

    と言っていた。

    まぁ人にはみえないモノをみえると言わない方が良い
    って事を知るくらい妹も成長し、大人になったのだろう。

    ワイは進学を機にど田舎から脱出し、
    独り暮らしを始めた。

    長い休みになると様子見と称し、
    実家から妹が遊びに来た。

    妹「行きたいお店があるの!」

    見せられた紙には
    数点の服屋の名前があった。

    もちろん、妹は場所を知るはずも無いので
    ワイがナビして買い物に付き合う。

    割と都会(当社比)なので
    地元のど田舎にある古い服屋では出来ないような買い物に
    妹は終始、楽しそうにはしゃいでいた。

    ワイはいつも妹や弟が居る実家を疎ましく思っていたが
    独り暮らしを始め、
    いざ一人になると結構寂しかったので
    久しぶりに妹の顔を見たワイも
    この時はかなりはしゃいでいたと思う。

    妹は数日間滞在し、
    田舎へと戻って行った。

    それから数日後、
    弟から電話がかかってきた。

    弟「兄ちゃん!
    今度は俺もそっちに行くから!」

    ワイ「おう、マッマの許可降りたらなー」

    お土産に買ってきて欲しかった服が無かったとか
    姉ちゃん(妹)は自分の物で頭いっぱいで
    弟の物を忘れていたとか
    ワイはたわいもない愚痴を聞かされた。

    大きくなってもぽけらっーとして抜けてる妹は
    小さい頃とあんまり変わらないなーとかワイが思っていると
    電話越しの弟が急に真面目なトーンになった。

    弟「ちょっと兄ちゃんに話したい事があるんだけど……」

    ワイ「どした?」

    弟「姉ちゃんが帰ってきてから
    家族会議があったんだけど……」

    ワイ「家族、会議?」

    少なくともワイが実家にいる時には無かった制度に
    何事か?と疑問符が浮かぶ。

    弟「姉ちゃんは兄ちゃんには絶対に言うなって言ってたんだけど……」

    弟「マッマも兄ちゃんが怖がるから話すな!って言ってたけど、
    多分知らない方が兄ちゃん怒るだろうから、さ?」

    流石、弟だ。

    弟がまだ赤ちゃんの頃、
    ワイがおしめを替えてやるくらい面倒見ていたからか
    弟はワイを兄としてかなり慕ってくれている。

    ワイ「よし、話せ!」

    忠臣から報告を受けるような気持ちで
    家族会議の事を聞く。

    弟「姉ちゃんが言うには
    兄ちゃんが今住んでる部屋に幽霊が居るみたい」

    ワイ「ふぁっ!?」

    ワイはゆっくりと部屋を見回した。

    弟「兄ちゃん?」

    ワイ「お、おう。そうか、分かったわ、じゃ!」

    ピッ。

    すぐに電話を切る。

    前にも話したが
    ワイは見栄っ張りなのだ。

    弟に情けない姿は見せない!兄だから!

    電話を掛ける。

    妹「もしもしー?お兄ちゃんどしたのー?」

    ワイ「今電話大丈夫か?」

    妹「んー?大丈夫だよー!」

    ワイ「お兄ちゃんの部屋に幽霊居るってマジ?」

    妹「えっ?マッマから聞いたの?」

    ワイ「弟から聞いた、マジなの?ねぇ?マジなの?」

    妹「ちょっと、お兄ちゃん落ち着いて、ね?」

    ワイ「どこにいるの?ねぇ?マジ、どこーーー!?」

    妹「大丈夫だから、お兄ちゃんまず落ち着いてってばー!」

    ワイはキョロキョロしながらビビり散らしていた。

    妹「大丈夫?落ち着いた?」

    ワイ「あぁ、とりあえず今日は友人の家に泊まりに行くわ。」

    妹「はぁー。
    だからかーちゃん(弟)には
    お兄ちゃんに言うなって言ったのに、もう!」

    ワイ「……一応、確認しときたいんだけど
    どんなのが部屋に居るの?」

    ワイ「ねぇ?悪い奴?悪い奴なの?」

    妹「もう、お兄ちゃん落ち着いてってば!」

    妹「分からないけど心配しなくても大丈夫だと思うよ」

    ワイ「ねぇ!?どんな!?
    やばそうならすぐに家から出たいんだけどーーー!!!」

    妹「女の人の霊だよ、
    ちょっとよくは分からないけど大丈夫だから!
    お兄ちゃん落ち着いて!」

    ワイ「女の人?やば。こわ。もうやだ、引っ越す!」

    ワイ「それにちょっとよく分からないけど大丈夫ってなに?
    それ大丈夫じゃないよね?ねぇ?」

    妹「私も分かんなかったの!」

    妹「マレーシア人で話してる言葉が分からなかったから!」

    ワイ「えっ?」

    話をまとめるとこうだ。

    ワイの部屋に泊まった日の夜、
    妹の枕元に女の人の霊が妹を頼って話し掛けて来たらしい。

    その女性は一生懸命、
    妹に何かを話して説明しているようだったが
    妹には分からない言語だったので
    何を言っているかも全然理解出来なかった。

    唯一、マレーシアだけは聴き取れたようで
    妹はその女性の霊はマレーシア人だと分かったらしい。

    泊まってる間、
    妹はずっと話し掛けられていたようだったが
    言葉が分からなくて力になれなかった、
    とポツリと言っていた。

    妹「都会だとあんな事もあるんだね!」

    何だか部屋に居るのがマレーシア人の女性の霊だと分かると
    怖さよりも面白さの方が優ってどうでも良くなった。

    電話の終わり際に、妹が言う。

    妹「お兄ちゃんはすぐに女の人に頼られちゃうから
    付き合う人には気をつけるんだよ!」

    あんなに小さかった妹が
    ワイの交際関係を心配するまでに大きくなったのか
    としみじみと思った。

    しかしマレーシア人の女性(しかも霊)に頼られるような関係は
    全く身に覚えが無い。

    残念ながら
    今まで一度もワイは幽霊を見た事が無かったので
    話を聞いた後も部屋に気配を感じたりする事など全然、全く無かった。

    後日、朝、目を覚ますと
    枕元に一本のかなり長い髪の毛(超ロング)が落ちていた。

    ワイは直感的にこれはマレーシア人の物だ!と理解し、
    しばらく友人の家に入り浸った。

    無理をしてでも
    その部屋から引っ越したのは言うまでも無い。


    9(投)緑髪の女

    卒業後、
    ワイは周囲の反対を押し切って
    地元からかなり離れた場所で就職した。

    この時から
    マッマや祖父母とは離縁したような状態になってしまったが
    妹や弟とは今までと変わらず、たまに連絡を取っていた。

    新生活を始める前に
    ワイは会社の近くで新たに借りる部屋を探す時、
    地元から妹を呼び、部屋探しを手伝って貰った。

    二人で不動産屋に行くと
    大抵夫婦に間違われ、
    広めの部屋を勧められた。

    その都度、
    妹だと説明する要らない労力もあったが
    それよりもこれから自分の住む部屋に幽霊が居るよりはマシだろう。

    ワイは全く見えないけど。

    無事に部屋探しを終えて、
    妹が地元に帰る前にワイに尋ねてきた。

    妹「お兄ちゃんって今、付き合ってる人居る?」

    ワイ「居ると言えば居る、かなー。
    多分、春からは遠距離になるから
    近い内に終わると思うけど」

    妹「その相手の人って髪の色、緑?」

    ぶっ飛び過ぎた質問に
    ワイは思わず噴き出しながら
    違うよと妹に答えた。

    今まで金髪に差し色で
    ピンクや黒髮に差し色でシルバーという
    個性的な髪色の女性とは付き合った事はあったが
    流石に緑色なんてぶっ飛んだ髪色の女性と
    ワイはお付き合いした事は無い。

    ケラケラと笑うワイとは対照的に
    妹は真剣な表情だった。

    妹「…緑髮の人とは絶対に付き合っちゃ駄目だよ?」

    ワイ「流石にそんな個性的過ぎる髪色の人とは
    絶対深い仲になる事は無いから大丈夫だよ」

    妹「お兄ちゃんは女運が無いんだから、
    本当に気を付けなきゃ!」

    いくら何でも緑色の髪をした女性がまともじゃない事くらい
    言われずともワイにも分かる。

    昔から妹はワイの付き合う女性に
    とやかくお節介焼きのように口を出していたので
    今回もそれだろう。

    緑髪……。

    ここでワイは一人だけ緑髮の人、
    いやキャラを思い出した。

    初音ミク!

    確かに学生時代のワイをオタ趣味に引き込んで
    やや人生を狂わした元凶とも言える。

    これ以上深みにハマると婚期を逃すぞ!
    と妹は忠告したいのだろう。

    あーだこーだ言う妹に
    お前も早く結婚しろよと
    ワイは強過ぎる禁止カードで話を終わらせて妹を見送った。

    ワイが付き合う女性は
    もれなく全員、重過ぎる愛で
    ワイにべったりと依存するタイプが多かった。

    ワイがそのタイプを引きつけるのか、
    そんなタイプだからワイが付き合えるのかは分からないが
    今、考えるとおそらく後者だろう。

    ある女性と別れた時、
    仕事での激務も重なり、
    ワイは壊れた。

    ワイ「せや!彼氏持ちならワイに依存せんやろ!」

    あまり思い出したくないので手短に話すと
    そんな軽い気持ちで関係を持った女性に
    ワイが次第に本気になってしまうもワイは手酷く裏切られて、
    遂には心までも壊して仕事を辞める状態まで追い込まれてしまった。

    幸い、貯金と失業保険でしばらくは暮らしていけたが
    ワイはその先を考える事もせず、
    スマホの電源を落として誰とも連絡を取らずに
    ただただ部屋にこもり、日々を過ごした。

    そんなある日、
    突然、妹が部屋を尋ねてきた。

    会いたく無かったので無視しようとしたが
    情けない事にワイは相当、追い詰められていたようで
    縋るようにドアを開けるなり
    妹に抱きついてピーピーと泣き出してしまった。

    妹は何も言わずに
    普段とは違った表情で
    ずっと泣いているワイの頭を撫でてくれた。

    いつの間にか泣き疲れて眠ってしまったのか
    目を覚ますと朝になっていた。

    記憶は無いが
    ワイはソファーで眠ったようで
    ベッドには妹が寝ていた。

    正直、昨日のピーピーと泣く恥ずかしい自分の姿を思い出すと
    これから妹にどんな顔で話せばいいのかと考えると気まず過ぎる。

    だが泣いて鬱憤を吐き出したせいか、
    妙にワイの気持ちは清々しいまでに晴れていた。

    恥ずかしいので絶対に口にはしないが
    ワイは心の中で妹に感謝した。

    朝だぞ、起きろ。

    そう言いながら妹を揺すると
    顔をしかめながらゆっくりと妹は上半身を起こした。

    小さい頃から妹は朝に弱く、
    中々起きれなかったなぁと思い出して懐かしい気持ちになる。

    妹「えっ!?あれ!?お兄ちゃん!?」

    周囲を見渡して妹は戸惑う。

    寝ぼけているのかと思ったが
    妹はワイをじっと見ると
    急に泣き出してしまった。

    妹「お姉ちゃんが居ない…!」

    昨日と立場が真逆に変わり、
    今度はワイが泣きじゃくる妹の頭を撫でた。

    妹の話をまとめると大体こんな感じだ。

    妹は夢で『姉』にお兄ちゃんを助けてあげてと呼ばれて
    昨日、訪ねてきたらしい。

    駅に着いた時くらいまでの記憶はあるようだが
    その後の記憶はぽっかり抜けているようだ。

    部屋探しの時に手伝って貰ったので
    一応、妹はワイの家を知っていたが
    昔から道を覚えるのが苦手な妹が
    どうやって一人でここにたどり着いたのか疑問に思っていたが
    話を聞いてワイは何となく納得した。

    それなら点が線になって繋がる。

    いつもと違った表情に感じたのも、
    一言も話さなかった事も。

    妹「お姉ちゃんは多分、
    お兄ちゃんについてた悪いモノを持って消えちゃったんだ……」

    ワイはそれ以上、妹に聞かなかったが
    だらし無い兄はどうやら『姉』と妹に救われたようだ。

    いつまでも『姉』や妹を心配させてはいけないなと思い、
    この出来事を機に少し時間は掛かってしまったが
    ワイは社会復帰した。

    そして以前使ってたSNSのアカウントを整理した時に
    ふとフォローリストを見ると
    あの手酷く裏切られた女性のアカウントがあった。

    趣味でたまにコスプレしてます!

    アイコンには
    マクロスFのランカにコスプレしたあの女性が写っていた。

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