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それなりに大きなカニ
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2011
19
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中編4分
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もう5年前になるけれど、 珍妙な体験をした。 その頃俺は田舎のコンビニエンスストアで夜勤の仕事をしていた。 やはり田舎なので、 その時間帯お客はほとんど来ない。 やるべき仕事を終えたら、 バックヤードでのんびり過ごすのがいつもの流れだった。 その時も俺は一仕事終えてビッグコミックを読んでいた。 ただでさえ来ない客は、 真冬ということもあってほとんど来ない。 それでも習慣というのか、 無意識に監視カメラの映像は気になっていたのか。 違和感を感じて画面を見た。 9分割の画面に目を移した俺は、 しばらくしておかしなものに気付いたんだ。 ちょうどこのバックルームの扉一枚向こう。 所謂イートインスペースって所。 そこを写している映像に、 モソモソと動いているものが。 一瞬扉に目をやったが、 開ける前にまずは画面を拡大して確認してみた。 カニだ。 大きさにして小玉のキャベツかレタスくらい? その時はそう感じた。 とにかく、 多分カニとしてはそれなりに大きそうな、 灰色っぽいカニが3匹いたんだよ。 見た目はなんていうか、 ちょっと丸っこい感じ。 それでもって、 片方のはさみがでかいやつ。 小さい奴なら浜辺とかにいそうな感じのさ。 それが3匹、 そのでかいほうのハサミがある手を挙げながら モソモソしてるんだよ。 外から紛れ込んだ、 とはその時は思えなかった。 なにせ海無し県の田舎だったし。 そいつらはなんとなく、 『海にいるカニ』に思えたからってのもある。 ともあれ、 数分後には俺は扉を開ける勇気を搾り出せた。 そして案の定、 そこには何もいないわけさ。 カメラには映ってるわけ。 俺もカニも映ってる。 でも目の前にはいない。 すわ、カメラの中のカニが俺に向かって来た! みたいなこともなく、モソモソし続けてるだけ。 さらに数分後には、 「俺疲れてるな」 ってありがちな結論に軟着陸した。 カメラの画面もそこは映さないようにして、 残りの数時間をいつも通りに過ごした。 んで、朝の6時になって店長が出勤してきた。 バックルームに入るために イートインに差し掛かるなり 彼が言うわけよ。 「なんか臭いね?」 ってさ。 「なんか磯臭いっていうか塩臭いっていうか」 と続けて言う。 言われてみればうっすら…。 俺は鼻炎持ちなので あまり気になっていなかったけれど、確かに。 「いや、実は昨晩…」 俺は事の顛末をバカに思われるのを覚悟で打ち明けた。 ところがカメラの映像を確認した店長が 「なにこれ、カニ???」 って。 あぁ、やっぱ映ってるよねぇ。 「このカニなに?入ってきたの?」 「いや、いなかったんですよ…」 「どういうことよ?」 俺は自分が扉を開けて確認してるところを見せた。 「カメラには映ってるのに、 実際はなんもいないんすわ…」 怪訝そうな表情の店長を見ていて、 俺はもう自分に自信が持てなくなってたわけ。 これはもしや目の前にいたカニを俺が認識してなかった? それやばいんじゃないの?ってさ。 何にせよ埒も明かないので 俺は交代して家路に着いた。 店長からその後を聞いたのは翌朝だ。 彼曰く、昨日の件は忘れていい。 君がおかしいわけでもないだろう、と。 やっぱそう思われていたか… と思いつつどういうことか聞いてみた。 あの後、録画の続きを確認してみたらしい。 すると、俺がカニを無視してから1時間後くらい、 3匹のカニは 「床にもぐって消えた」 そうなのだ。 「あんなこといくら考えてもわからないし。 気にしなくていいよ。今日は見たの?」 「いや、見なかったんですよね」 「んじゃそういことで流しちゃおうよ。 また見たらそん時ってことで」 そんな曖昧な感じでこの件は流れ、 以降おかしなことも一切なく、 1年ほどで俺は別の仕事に就いた。 敢えて挙げるなら、 カニの翌月から売り上げが30%ほど伸びていったというところだが、 この実績はカニの手柄ではなくスタッフの手柄だと思いたい。 先日アニマルプラネットを観ていて急に思い出した、 珍事件でした。 あぁ、そういえば店長が、 「床にもぐって消える直前、 カニのクセに3匹ともこう、 ハッとした感じになってから潜って行きよった」 って笑ってたな。 それはちょっと見たかったかも…。
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