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知らない方が良いこともある
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久しぶりに田舎の実家に帰ろうと思いたち、電話をかけてみた。電話に出たのは父だった。『おう、どうした?』「明日明後日と急に休みになったから、帰ろうと思うんだけど」『分かった。母さんにも言っておくよ。気を付けて帰っておいで』こころなしか嬉しそうだった。実家は三方を山で囲まれた場所にあり、車で片道一時間半の道程だ。村の入口まで来た時に懐かしい顔が居た。幼なじみの友人だ。 「久しぶりだな、帰ってきたのか?」「少し休みが取れたんだ。お前ん家近くだっけ?とりあえずウチまで乗ってくか?」「ありがとう!わるいな」村の入口から家までは五分ぐらいだが、その間に友人と思い出話等をしてた。家に着いた。「ただいまー!」父が出てくる。でも何故か無表情。そして視線が定まってない。「おかえり。早速だが、山の広場で祭りをするから行ってきなさい。友達も一緒に」抑揚のない喋り方に違和感を覚えたが、友人が「行こうぜ行こうぜ」とウルサイのですぐ行くことにした。あれ?でもあの広場は昔から「入るな!」と厳しく言われてたような…と思いつつも山の麓へ着いた。友人が駆け上っていき、俺も後を追った…そして広場に到着した。そこは林が開けたような場所で、一番奥には神社のような建物があった。あたりは静まり返り、日が沈んできたのも相まって不気味だった。「祭りなんてやってないじゃないか」なんて話していると、目の前の神社のような建物から神主(?)が出てきた、と思ったら、目を閉じながら大声で不可解な言葉を発しだした。太鼓や笛の音も聞こえてきた。それと同時に、木の影からゾロゾロと人影が現れる。みな奇妙な仮面を付け、派手な衣裳を身にまとっている。そいつらは俺達を囲むように輪になったと思ったら、松明に火を灯し、踊りはじめた。早送りを見てるかのような奇妙な踊りを…目の前の異様な光景に寒気を覚え、友人に「おい、帰るぞ!」と言ったが、友人は目を輝かせながら踊りを楽しそうに観ている。輪の一部が手薄な場所を発見。友人に「おい走るぞ!」と声を掛け、そこ目がけてダッシュした。一目散に走り、ようやく村まで戻ってきた。友人は…付いてきていない…助けに戻る勇気が無い俺は、父親に助けを求めに家まで走る。家に着くと父が玄関先に立っていた。「親父!大変だ!アイツが!アイツが!」しかし父は、「どうやら無事に終わったようだな」と笑顔を見せる「…え?…何が?」状況が理解出来ない俺に父が、「そのアイツとやらの名前を言えるか?」「………」俺は答えられなかった。それどころか、さっきまで一緒だったのに顔すら思い出せない父が続ける。「アレはな…この土地に昔からいる神様みたいなもんだ。俺がさっき見た時は子供の容貌だった。必死に平然を装おうとしたが、不自然だったな…で、基本的には危害は無いのだが、お前みたいに外から村に入ってきた者にとり憑く」更に話を続ける。「奴が危害を加える条件が二つあってな。一つは、憑かれた者が憑かれている事に気付くこと。もう一つは、村の外へ出ること」詳しくは分からないが、この村がある地形自体が結界になっているらしい。そのどちらかをしてしまうと、神様とやらがいる向こうの世界に連れて行かれ、半永久的に遊び相手をやらされるらしい。親父は俺が憑かれてると判断し、広場へと送り出した。そしてそのすぐ後に神主さんに電話をし、引き剥がしの儀式をお願いしたそうだ。「あいつ(神主)の家系は代々あの場所で、お前みたいに憑かれた者を助けてきた。あいつはかなりの怖がり屋なんだがな」「だから目を瞑ってたのか」「奴は祭りや賑やかなのが好きなんだ。だから太鼓や笛の音を流し誘き寄せる」「あの奇妙な仮面の人達も、急いで準備してもらったの?」「仮面の人達?あそこにはあいつ一人しかいなかったはずだが…」あそこで起こった事を説明すると、「恐らくその仮面達は、遊びに出た神様を連れ戻しに来たんだろう。どちらにしても、知らない方が良いこともある。あいつには内緒にしておこう。聞いたら発狂するだろう…ははは」翌日。俺は帰路に着いた。村の入口の昨日『友人』が居た場所には、小さな地蔵があった。心なしか悪戯な笑顔をしたように見えた。
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