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夢で見た洋館
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2019
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長編14分
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俺にも信じられない話なので、 この話を信じてくれとは言わん。 俺が小3くらいまで、 熱出した時に必ず見る夢があった。 蔦が壁一面にビッシリと張り付いた洋館の前に、 ガキの俺がいる。 周りはなぜか霧が出ている。 その洋館の玄関を開けるところで、 夢はいつも終わる。 ここで話は、 俺が大学生の時になる。 俺はテレビ制作会社で、 ADというか雑用のバイトをやっていた。 田舎の大学に行っていたので、 極めてローカルなTV番組を作る会社だった。 ある番組の中で、 県内の不思議な建物を撮影するコーナーがあった。 それはミニコーナーなのだが、 異常に狭い庭がある家とか、立派な鬼瓦がある家とか、 バカバカしいコーナー。 俺は雑用係で、 そのコーナーの取材にはいつも同行していた。 その日もそのコーナーのロケだった。 会社に行くと、 ディレクター(以下D)から言われた。 「今日いく家なんだけど、 今までとちょっと勝手が違うから」 俺は「???」と思いながら、 とりあえずロケに同行した。 ロケ車の中でDから話を聞くと、 今日行く家は明治時代くらいに建てられた洋館らしい。 現在の持ち主はその子孫らしい。 その子孫自身も管理はおろそかにし、 洋館はほとんど廃館に近い状態だという。 車の中は俺、D、カメラマン(以下C)、 カメラアシスタント(以下CA)の4人。 いつもの面子だ。 そのロケにしては珍しく、 結構遠い場所がロケ地だったので、 その日は洋館に泊まるという。 それは事前に聞いていたので着替えはOK! 車は山道を走って行くが、 俺は「??」だった。 だって今日いくのは明治時代の洋館でしょ。 俺の住んでいた場所は、 田舎でもわりと都会の場所だった。 洋館があったら確実におかしい。 なのに…なのに…この山道はナニ? こんな場所に明治時代人が住んでいたの? しかもなんで洋館なんか建てたの? 車はグルグルグルグル、 同じ様な景色が続く山道を走る。 かなり寒い。 そして民家など一件も無い? というかここに住所はあるのか? そんな場所。 決して閑静な田舎の別荘地なんかでは無いので、 誤解しないように。 会社を出て実に3時間。 本日のロケ地に到着した。 突如その洋館は現れた。 デカイ。異様だ。 なんか怖さすら感じる。 車を降りると寒い。 とりあえず、 撮影機材を降ろしてロケの準備。 外壁に蔦が絡まった立派に洋館…。 「ん…?」 なんか不思議な感覚だ。 デジャビュのような感覚。 Cは外観の撮影をしている。 俺もボーっと外観を見ている。 なんか不思議な感覚… 少し懐かしい感覚。 そして怖い感覚。 さすがの俺も気づき始めた。 この洋館って… 撮影の邪魔をしないように、 そっと建物の脇へ廻る。 その時に合致した。 ガキの頃夢に出てきた洋館だ! 俺はいつもこの場所に立って、 この洋館を眺めていた。 しかし田舎の制作会社とは、 撮影中はけっこうな緊張感。 そんな与太話をスタッフにしたら怒られる。 とりあえず自分の胸にしまっておいた。 外観撮影は終了。 さて、与太話でもスタッフにしようと思った時、 Dが俺に言う。 「俺らこの付近のインサート撮ってくるから、 君は管理者に挨拶しといてくれる? もう来て中で待ってくれているハズだから」 「そうなの?」 って思っていると、 スタッフは俺を残して消えていった。 仕事とはいえ少し怖い。 でも仕事なので仕方ない。 とりあえずなんていうのかしらんが、 ドアについているガチガチ叩くヤツで住人に呼びかける。 (明治の建物だから、インターホンがないのね) しばらく待つ。 反応はない。 仕方ない。 ドアノブに手を掛ける。 鍵は掛かってなく、 ドアは普通に開いた。 中は少し薄暗い。 勝手に入るのも失礼かと思い、 大声をだしてみる。 「すみませ~ん。 本日お世話になる○○(制作会社名)のものですが、 どなたかおられますか?」 しかし無反応。 外の光と目の慣れで、 中の様子がうっすら見えてくる。 でかいホールのような場所だった。 少しボーゼンとしていると、 ホール右のドアが開いた。 低い声で 「はい…」 と出てきたのは、 50歳前後の男性だった。 少し違和感がある。 「なんだこの感覚?」 と思いながら。 俺「本日お世話になる○○のものです。 スタッフはまだ外の撮影をしていまして、 とりあえず僕だけご挨拶に…」 男性「ああ…はい。どうぞ」 俺は中へ招き入れられた。 ホールの奥に通される。 なるほど。確かに立派な洋館だ。 手入れは行き届いているとは言わないが、 外の廃館の感じよりは小奇麗だ。 食堂の様なところへ通される。 落ち着かない。 男「お茶入れてきますので…」 食堂から出て行く。 あの男どっかで見たことあるなぁー。 食堂の中を見回して見る。 女の人の絵がある。 とりあえずDに連絡しようと携帯を出す。 マジかよ…圏外。 待っていると、さっきの男登場。 俺に茶を出してくれる。 ハーブ茶みたいなヤツ。 俺これ嫌い。 でも不思議と飲める。 割とうまい。 なんでだろ? 俺、嫌いなものは絶対ムリな方なのに… 気まずいので男と話す。 俺「すみませんスタッフ遅くて」 男「いえいえ」 俺「立派な洋館ですね?」 男「私も詳しくは分からないんですがね… この辺りは昔、外国人が暮らしている集落があったそうですよ」 土地に歴史あり。 明治のこの山奥に外人集落!? 金山でもあったのか? それにしてもこの男…どっかで… 玄関口が騒がしい。 スタッフが来た。 少しホッとする。 「すみませ~~ん」 なんて声が聞える。 俺と男が同時に食堂を出て、 スタッフの出迎え。 男とDは大人の挨拶をしている。 D「お世話になります。しかし立派な洋館だぁー」 なんて。 男「好きに撮影して下さい。 どの部屋も使ってないから、 出入りは自由にして良い」 撮影(ってか洋館の探索)が開始される。 ホールの撮影が終わると、 さっき入った食堂。 女の絵を撮影するC。 この女の絵もなんか気になる。 少し不気味。 もうさっきの男は消えていた(元いた部屋に)。 俺はCAにコソコソと耳打ちする。 俺「なんか不気味な洋館ですね」 CA「こんなもんじゃないかな?洋館って」 2階に上がる。 小部屋が数室ある。 Dが適当な部屋を開けていく。 ここは明らか掃除していない。 埃臭いってか埃まみれだ。 俺「こんな所撮るんですか?」 D「こういう所が面白いんだよ」 そういうもんか? 撮影中ADはあんまりする事がない。 Dが指示。 CAが三脚あげたりライト当てたり。 Cが撮影。こんな感じ。 俺は部屋の中を適当に見ていた。 ふと机に目をやる。 おや…日記帳がある。 珍しいこともあるもんだ。 俺が小学生の時、気まぐれで日記をつけようと、 近所のボロい文具屋で買った日記帳と同じものだ。 日記は三日坊主だったけどね。 きっとマイナーな会社のモノだろう。 それ以来、 どの文具屋でも見たことはない。 それが今ここにある。 偶然ってあるんだなって思った。 少し中を見たかったけど埃まみれ。 さすがに、 撮影中にニヤニヤ人の日記見てたら怒られる。 やめとこう。 次の部屋へ移動。 ここは綺麗に片付いている。 俺らが泊まる部屋なんだろう。 洋館には不釣合いの布団が4組。 男よありがとう。 ここは用無し。 一同トイレの撮影へいく。 便所は妙にかっこ良かった。 いかにも洋館の便所って感じ。 (どんな感じだ) さすがに男4人も入れないので、Cだけ入る。 ドアは開けっ放し、俺も便所の中を見ていた。 「!!??」 便所にかけてあった何気ないタオル。 あの模様…。 昔家になかったっけ… まぁなんか不思議な感覚だった。 実際、自分がそんな立場にたったら意外と怖くない。 というより、 霊的現象って感覚はまず無い。 こんな事もあるのな?って感じ。 撮影後スタッフには話してみよう。 撮影終了。 ミニコーナーのロケだから早かった。 それでも時間的には7時過ぎくらい。 泊まりだから別に無問題。 スタッフ全員で男の元で行く。 D「ありがとうございました。 いい画が沢山撮れました」 男「それは良かった…」 D「電話あったら貸してもらえますか?」 男「どうぞ」 ホールの隅に案内されている。 未だに電話は使えるのね。 さすがに携帯使えないから、 不便だもんね。 Dは会社に、ロケは無事終わったと報告している。 俺は男に、夕飯はいつにするか聞かれた。 晩飯は用意してもらう手はずなのね。 俺の判断でいいだろう。 俺「機材の片付けあるので、それじゃ1時間後にでも」 男「わかりました。 ちなみにお風呂は使えませんので我慢下さい」 俺「はい」 機材の片付けをしながら段々分かってきた。 男が誰なのか… 機材を片付けて、 用意してもらっていた部屋に入る。 ここから晩飯までは、くつろぎタイムだ。 スタッフに話す。 夢のこと。 日記張とタオルのこと。 以下、それぞれの反応。 D「俺も熱でたら、同じ夢見てたことあった。 でもお前のは妄想」 C「怖い話はヤメレ」 CA「ふ~ん。不思議だねぇ」 お前らのリアクションって、 所詮そんなもんか! それから、みんなゴロゴロ寝てた。 俺は付き合ったばかりの彼女のこと考えてた。 当時その彼女と毎日電話してた。 泊まりロケの話はしていたが、 今夜も電話してくるだろな…。 まさか圏外とは思わずに…。 そんなこと考えていたらドアを叩く音。 男「夕食の準備ができました」 食堂に集合。 意外とちゃんとした料理がでてきた。 飯。秋刀魚。味噌汁。漬物。あと適当な副菜。 そしてなぜかざるそば。 普通にうまかった。 秋刀魚には大根おろしがついている。 大根の固まりが一個あって、 すりおろし器がある。 「おろしが必要な人はご自由に!」スタイルだ。 また来たよ。 この大根擦るやつ。 小学校の時に、俺が母の日に、 ママンにプレゼントしたモノと同じだった。 目の前で飯食っている男…。 不完全だが一致した。 俺のおじいちゃんにそっくりだ。 5歳の時に事故で亡くなった祖父。 うろ覚えだけどこんな顔していた。 そして後ろの女の絵。 これも祖父と同じ事故で、 亡くなったばぁちゃんに似ていた。 ここまで来たらさすがに怖い。 飯は我慢して食った。 早く部屋に戻ってスタッフに話したかった…のに!! 他のスタッフは酒出されて呑んでるし! チッ! 俺は元々酒ニガテ。 時が過ぎるのをひたすら待った。 小便したい。 でもこの家怖い。 1人で便所?ムリムリ。 そーか、あのハーブ茶も、 おばぁちゃんに飲ませてもらった味に近かった。 だから飲めたのか… 部屋に戻る。 俺の中二病は発病。 俺「ここはなんか怖い。危険です。帰りましょう!」 D「もういい加減飽きた。さっさと寝れ」 俺「便所だけはどうかついて来て下さい。後生です」 D「分かったよ…」 小便は無事できた。 あとはこの洋館で寝るのか…やだなぁ。 寝れた。 なぜか。あんなに怖かったのに、 スヤスヤ寝ていた。 布団はD・俺・C・CAの順番だったと思う。 とりあえず、俺は端では無かった。 別に夢も見て無かったと思う。 ふと目が覚めた…。 目の前に男の顔があった。 意外と叫んだりしないもんだな…。 出た言葉は、 「おぅっっ…」ってな感じ 覗き込む男。固まる俺。 その間約2秒…。 ちなみに男の手には、なぜかロウソク。 男「○○さんですね…」 俺「…はい」 男「お電話です…」 俺「…どーもすみません」 男に先導されて廊下を歩く。 廊下真っ暗。 明かりは男のロウソクのみ。 寝ぼけているのか?俺? この時はあまり怖くなかった。 不思議だ…。 廊下を歩いていると前の男が、 「ヒッ…ヒッ…」という声を出しているようだ。 その度に俺、ビクッビクッっとする。 この男笑ってね? 電話の前に到着。 男「どうぞ…」 俺「どうもありが…」 男がいない。 どっか近くの部屋消えた? キョロキョロと辺りを見回す。 すぐ横にドアがあった。 ここに消えたのか…。 少し安心した。 しかし、音も無く消えないでよっ! 受話器を取る。 俺「…・もしもし」 受話器「ちょっと!全然携帯通じないじゃーん。 どういう事よ~~!?」 彼女だった。 俺「ごめん。圏外のところにロケきてんだ」 ここからは普通に話していたと思う。 なにせ寝ぼけている。 早く寝かせてくれ。 俺「明日4時ごろ帰るから、それから会おう」 彼女「分かった。連絡してきてね。待ってま~す」 ヤレヤレだ…。 部屋に戻る。 暗いがなんとか帰れた。 さて寝よう…と思った時。 「あれ…なんで…??」 不思議…だった。 どう考えても不思議だった。 「何で彼女、この番号を?」 ロケに行くとは言った。 結構遠い場所らしいとも言った。 しかし…正確な場所は俺でも知らなかった。 なんでだ…? 寝よう…。 考えても分からない。 意外と早く眠りに落ちた。 翌朝7時起床。 荷物を担いで食堂へ。 朝飯も用意してくれているとの事。 スタッフ一同ゾロゾロと食堂へ入っていく。 昨日のことは夢だったのか? 寝ぼけていたのか? 男に確認しなければ!! しかし食堂に入った瞬間、 このロケで最高にド肝を抜かる光景を目にした。 「おーーはようござーーいまーーーす!」 食堂に響く威勢のいい声。 目を丸くするスタッフ一同。 男が蕎麦を打っていたっ!! 男「みなさん良く眠れましたか? いや~私、蕎麦打つのが趣味でね! 皆さんに美味しいお蕎麦ご馳走しますんで… ささ、早くテーブルへ」 一同ポカ~~ン。 男が蕎麦を打つのを、 黙って見るスタッフ一同。 昨日とはうって変わって、 ものすごく威勢のいい男…。 なんだこの豹変ぶりは!!?? 同一人物ですか?? 俺は確認した。 俺「…昨日の夜はわざわざ有難うございました」 男「いやーー気にせんで下さい!全然大丈夫ですよ!」 どうやら同一人物ではあるようだ。 そして、昨日あった事も夢ではなかったようだ…。 CA「昨日なにかあったの・・?」 俺「いや…僕に夜電話が掛かってきて… 取り次いでもらったんで」 CA「ふ~ん。そうなんだ」 男「お待たせしやしたっ!!!」 前に置かれる蕎麦。 確かにうまそうだ。 その蕎麦を一口食った瞬間分かった! 昨日の蕎麦も男の手打ちだったのか…。 俺たちは男に礼を言って洋館を出た。 なんか疲れたロケだった。 窓の外を見る。 緑の木々が妙に美しかった。 俺は、なんで彼女が電話番号を知っていたのか? ボーっと窓の外を見ながら考えていた。 そして…あれ…その前に… 不思議なことはもう一つあった。 なんであの男… 俺の名前知ってたの? 挨拶はしたけど、 自己紹介はしてないよね? 俺バイトだし当然名刺もないし… 名前言っても仕方ないから名乗ってない…。 無事会社に到着。 早速彼女にメール。 『仕事終わったら○○に行くから待ってて』 彼女メール『了解!』 会社を飛び出し待ち合わせのサテンへ。 早く確かめたい! なんで昨日番号が分かったのか!!?? 俺が喫茶店に着くと、 彼女は既に到着していた。 軽く昨日のロケの話… んで、核心へ。 俺「ところで昨日さぁー、 なんで俺のロケ先の番号分かったの?」 彼女「え…電話なんかしてないよ。私」 本当にあった、 学生時代の不思議な体験でした。 信じられないかもしれないけど、実話です。 その会社は潰れたと風の噂で聞いたから、 Dと連絡は取れない。 卒業してDの携帯も消したし。 しかし、あの時なんでもっと追及しなかったんだろ。 不思議体験は、後にも先にもこの一回だけです。
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