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酒の神様
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結婚して、彼女の実家の近くのアパートに住んでいる。 市内にある俺の実家から離れた郡部で、 町の真ん中に一本国道が通っている。 その道を境に川側と山側に分かれるとして、 俺の家と彼女の実家は川側にあるので、 近所の事は散歩等で詳しくなったが、 国道を超えて町の山側には行った事が無い。 山側には鮎のヤナなんかがあって観光地らしいが、 未だに行ってない。 これは2月頃体験した不可解な出来事。 会社は市内にあって、 家に帰るまで早くて40分くらい掛かる。 会社は昼から始まり、 夜9時まで仕事。 詳しくは書かないが締め切りのある仕事で、 締め切り前になると、 午前2時とか3時くらいまで残業する事もある。 途中、川沿いの道を延々進むんだけど、 ある日霧が濃い日があった。 その日は金曜で翌日が休みなので、 1時くらいまで仕事をしていた。 霧はそれまで何度か経験していたけど、 その日ほど濃い霧は初めてだった。 「ありゃ、こんなスピードで走ってたら、 何時に帰れる事やら…」 と独り言が出るくらい、 時速14~15キロくらいのスピードで、 僅かに見える中央線を頼りに、 トロトロと進んでいた。 まわりに他車のライトは見えない。 途中、明るい○○橋のオレンジ色の光を過ぎた。 もう少し行けば左にカーブして町中に入れる。 そうすれば、霧も薄まり、 コンビニや夜間も点灯してるパチンコ屋の光で、 走りやすくなるだろう。 と考えてた瞬間。 ガッ!と何かに乗り上げた感触。 しまった。 路側帯に乗り上げたか? 慌ててブレーキを踏むとザザーッと、 砂利道でブレーキを踏んだ感触。 何が起こったか分からず、 回りをキョロキョロと見回す。 が、回りは濃い霧に包まれてるだけ。 懐中電灯を持って車を降りると、 信じられない光景。 今まで走っていた道路じゃない。 つーか、この足下は道路ですら無い。 砂利と石畳になってる。 どこだ、ここは? 状況を確認すると、 どうやらどこかの神社みたいだ。 懐中電灯で鳥居を照らして、 ○○神社と読める。 「今○○神社ってトコに居るんだけど…」 と、嫁に電話してみた。 「なんでそんなところにいるの?」 よかった。 嫁の知ってる場所らしい。 「道に迷って帰れないので、 迎えにきて欲しい」 とだけ伝えると、二・三言話しをして、 どうやらココが、 前述の山側にあるらしい事が分かった。 鳥居の石段のところに腰掛け、嫁を待つ。 霧が少し晴れてきたが真っ暗。 遠くにコンビニやパチ屋の看板の光が見える。 位置関係から、 一瞬で町中をすっ飛ばして、 山側のこの神社に来てしまったらしい。 暫くして、 石段の下のところに車のライトが見えた。 俺の車のライトと、 懐中電灯の光に気付いたっぽい。 人影が懐中電灯を持って、 石段を上ってくるようだ。 多分嫁だろう。 俺も石段を下りる。 石段は100段くらいの道のりで、 途中嫁と合流して一緒に自分の車まで戻った。 嫁と二人で境内を確認する。 神社の規模から間違いなく、 車の通れる道があると考えたからだ。 一応道は見つかったが、 鉄扉に南京錠が掛かっており、 車で降りる事はできない。 翌日は休みなので、 仕方なく車を邪魔にならない場所に移動して、 階段を下り嫁の車で帰った。 途中、嫁から根掘り葉掘り聞かれたが、 仕事の疲れもあり、 本当に分からないのは自分だからと簡単に伝え、 家に帰った。 翌朝、町会議員をしている義父から神社の神主に電話してもらい、 鉄扉を開けてもらうように頼んだ。 神社に行くと、 スエット姿の神主が 「いやーすいません、夕べは大変だったでしょう?」 と挨拶された。 挨拶を返しながら、 謝るのは神主にわざわざ来てもらった俺の方なのに、 と疑問を感じ、神主と話をしてみた。 「こんなことあるんですか?」 との俺の問いに、 同じ状況が過去に二・三度あったらしい。 その神社は酒の神様で、 酔っぱらった人を呼びつけるらしく、 車は滅多に無いが、 酔っぱらった人が迷い込む事はよくあるそうだ。 いや、俺は酔っぱらってなかったし…と思ってたら、 「車に酒を積んでませんか?」 と聞かれた。 そう言えば、 年末に配ってたお歳暮用のビールと清酒の余りが、 載せっぱなしになってた。 俺は酒を飲まないから、 下ろす事もしなかったし… 「神通力ってなのかな? ウチの神さんは霊験灼かなようで…」 と、どうしようもない話で無理矢理まとめられた。 帰り際、 神主に挨拶がてら載せっぱなしの酒類を神主に渡し、 奉納してもらった。
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