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山の中にそんな町あるわけない
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私が小学校低学年の頃の話です。 私の実家はド田舎にあるのですが、 家の裏手に山があります。 あまり人の手も入っておらず、 私はよく犬の散歩で山の麓や少し入った山道を歩いていました。 梅雨が明けて暑くなりだした頃だから 7月だったと思います。 いつものように山道に入っていくと 犬が急に走りだそうとするんです。 よし、じゃあ走ってみようか!って 一緒になって走って気が付いたら いつもより険しい山道に入ってしまったようでした。 15時くらいに家を出たので、 まだ明るい時間帯のはずなのに 山の中は薄暗く不気味に感じました。 元来た道を戻ろうと引き返し始めると、 途中で道が途切れてしまいました。 かなり出鱈目に走り回ったから 場所も方角もわからなくなってしまったわけです。 少し涙目になりながら、 それでも下に下に降りていけば山からは出られると思い 草だらけの道無き道を犬と一緒に降りていきました。 しばらく山を下りていくと 段々と周囲が明るくなり 夕焼けの色の空が木々の合間から覗きます。 こんなに時間が経っていたのか、 早く帰らないとお母さんに怒られる、 そんな事を思いながら さらに山の麓を目指しているとトンネルの脇に出ました。 トンネルの向こうからは 夕焼け色の光が見えます。 人工物を見つける事が出来て安心した私は そのトンネルを抜ければどこか知っている道に出られると思い トンネルの中を犬と一緒に走りました。 トンネルを抜けると そこには緩やかな盆地に作られた町のよう。 家が沢山あり 夕焼けが屋根を照らしています。 こんな町があったんだなぁ、 と少し興奮しながら山の麓に下りる道を聞こうと 私は町へ向かいました。 トンネルから町に入る道の右に民家があって、 少し離れた場所から道の左右に ズラッと家が並んでいるのがわかります。 町に近付きながら誰かいないかな、と思っていると トンネルから一番近い民家からおじさんが一人出てきました。 犬を連れた私が近づいてくるのを見て 笑顔で挨拶してくれます。 私も挨拶を返した後、 麓に下りる道を尋ねました。 おじさんは不思議そうな顔で 「君が今来たトンネルを抜けて そこから山道を下れば麓に出られる」 と教えてくれました。 この町を抜ける道を聞きたかったのですが まぁいいかと思い、 礼を言って引き返そうとすると おじさんが私の名前を尋ねてきました。 私は山の近くに住んでいます○○です、と答えると おじさんは納得したような顔で頷きながら 「ここら辺は夜になると野良犬がうろつくから 早く帰った方がいいよ」 とトンネルを指差します。 私は再度礼を言ってトンネルに引き返しました。 途中で振り返ると おじさんが私を見ながら手を振ってくれたので、 私もお辞儀してから手を振り返しました。 トンネルに入る前に もう一度振り返るとおじさんはまだ家の前にいたので、 また手を振りながらトンネルに入りました。 そこからトンネルを抜けて山道を下っていくと 周囲がさらに明るく開けて 山の麓の知っている道に出ました。 今日は歩き回ったね~ なんて犬に声を掛けながら家に帰る途中で、 まだ夕日が照っていない事に気付きました。 あれ?とか思いつつ 家に帰り着いたのは16時半くらいでした。 家に帰ってから母にその日の冒険の事を話すと 「そんな町あったんだねぇ」 と不思議がっていました。 夜になって父親にもその話をしましたが 「山の中にそんな町あるわけない」 の一点張りで、 さらにあまり山の中でウロチョロするなと 軽く叱られました。 私はもう一度その町に行こうと思ったのですが、 トンネルもそのトンネルから麓に下りた道も見つける事が出来ませんでした。 その年のお盆、 家族や祖父母と一緒に墓参りに行きました。 それまでに数回訪れたことのあるはずの墓地を見た瞬間、 妙な既視感を感じました。 なだらかな丘に道があり その左右に墓が並んでおり、 そして墓地の入り口から一番近い墓が私の実家の墓です。 当時の私はそれを理解してから 本気で泣きました。 理由を聞いて祖母が 「そのおじさんにしっかりお礼言わなきゃね」 とお墓を磨かせてくれました。 あの時のおじさんの顔は ぼんやりとしか覚えていません。 しかし最近歳をとった父親の顔を見ると、 こんな感じの顔だったなぁなんて思います。 あまり怖くなくてすいません。 ただ、 もしそのおじさんに出会わなかったらを想像すると 今だに私は怖いです。
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