怖い話登録数18393話
恐怖感アップダークモード
(0件)
▼コンテンツには広告が含まれています
✕
おはぐろ
お気に入り
1762
47
0
長編5分
コピー
「おはぐろ」の朗読動画を探しています。YouTubeでこの話の朗読動画を見つけたらぜひ投稿していってください。
※YouTubeのURL必須
開始時間
00時間00分00秒
投稿する
本来、このような書き方は学的に不適切なのではあるが、 しかし細部はおろか全体像すらが理解しかねるのであれば、 できる限り彼の語った通りに記述しておくのが現状では最良の手段と信じる。 彼、患者Aは、 ここ数年にわたる強度の脅迫性障害の治療のために、 私のところへ来た。 明白な自覚症状は、 エヘエヘと含むような笑い声と、 ズルズルと何かが近づいて来る物音とを主象徴とする妄想的恐怖である。 そのために、ここ数年転居と転院を 数え切れないほど繰り返しているのだと言う。 それらを述べた後で、彼自ら、 原因と見なしている出来事について語ってくれた。 それは、 増改築を繰り返したあげく放棄された、 いわゆる廃宿屋だった。 山裾を、あたかも這い登るような 構えの豪勢な屋敷だそうだ。 彼がお年寄りたちから聞いた限りでは、 非常に古く、おそらくは近くとも 戦国時代の頃からあった建物だそうだから、 あるいは元々領主の館だったのかもしれない。 そんなお屋敷宿屋も、 戦後はろくに客も取らず、 やがては自然廃業のような形になって、 最後は当主1人だけがひっそりと住んでいたのだが (さては戦争で彼だけが生き残り気力を喪失したものか)、 数年前、 その当主が息を引き取ったらしき噂が 誰からともなく流れた。 しかし、人嫌いな当主は近所の支援を拒み続け、 またそんな広い屋敷を1人で維持できるはずもなく、 既に幽霊屋敷も同然の有様だったので、 噂を確かめようとする者は誰もいなかった。 そこで、 いずれは役所の人が来て公有となるだろう前に、 その噂の確認の意味も込めて、 Aとその友人BおよびCが、 夕方にこっそり入ってみよう、 ということになったのである。 なぜ夕方かと言うと、 まあ若気の至りという奴で いわゆる肝試しをしたかったことと、 後当主が健在なら、その頃に入れば、 いずれ点く明かりでそれが分かるだろう、 と考えたとのことである。 3人はBの運転する自動車で門の前まで行き、 そこからこっそりと忍び込んだ。 ところがどうした拍子か、 複雑な作りの屋敷内を行き来するうちに、 いつの間にかCの姿が見えなくなっていたという。 それまでは、 もし健在なら人嫌いな当主のことだから 激怒して追い出すだろうから、 とできる限りこっそり静かに探検していたのだが、 もう日も落ち始めたからにはそうもいかず、 残る2人は大声でCの名を呼びながら さらに屋内を探し歩いた。 そうこうするうちに、 非常に長い縁側の一方の端に行き当たった。 既に外は暗く、 夕暮れの光でかろうじて物が見える程度なのだが、 縁側は途中から雨戸が閉まっているのか、 手前側はどうにか見えても奥、 向こうの方は漆黒で何も見えない。 僕とBは顔を見合わせた。 何かやばい、 妙な「気配」をあの漆黒の向こうに感じる。 Bも同じ思いらしく、 無言でその闇を見つめたまま ジッと立ちすくんでいる。 と一瞬、僕たちは息を止める。 闇の奥で何かが動いている! エヘエヘと白痴じみた力のない笑い声とともに、 何かがズッ、ズズッと這い寄って来る!! 僕たちがギョッとする間もなく、 暗く長い縁側の奥の闇から、 夕暮れのほの暗い明るみの中に Cが、寝そべるように這い出てくる。 満面の笑みでエヘエヘと笑いながら。 「何だよ、いたずらかよ」 ホッとした僕たちは 苦笑いしながら愚痴った。 「こんなとこじゃ洒落になんねーって、 ほら、もう帰るからとっととコッチ来いって」 Cは、 相変わらずエヘエヘ笑いながら ズッ、ズズッと這い寄る。 僕たちをビビらせたのがよほど嬉しかったのか、 ヨダレさえ垂らす笑顔にはちょっとゾッとしたが、 わざと怒った顔で僕たちはそんなCをにらみつけた。 「いい加減怒るぞ! とっとと立ってコッチ来いって」 Cは聞く耳持たずに なお匍匐前進な姿勢で歩み寄る。 さすがにムッとしてツカツカ歩み寄ろうとした刹那、 「それ」が見えた。 絶叫と逃走、 無我夢中で気づくと僕らは既に車の側に戻っていた。 呆然と振り返ろうとする僕に、 Bが運転席に飛び込みキーを回しつつ怒鳴る。 「ダメだ、早く乗れ!! あいつはもうダメだ!! 警察にまかそう!!」 警察、の言葉に僕はようやく勇気付けられ、 Bの言葉に従い助手席に飛び乗る。 ドアを閉める間も惜しげに Bは車を急発進させた。 彼らはその足ですぐに警察へ駆け込み、 その屋敷でCが行方不明になったと告げた。 警察も、もともとが屋敷の現状を確認したかったのか、 即応して朝まで捜索が展開された。 その結果、当主が一室で、 おそらくは老衰のため死んで 布団の中で半ミイラ化していたのが発見されたのと、 こちらは朝になって分かったことだが、 縁側から外部へ、 何かが這い出て行った痕跡が発見された。 Cの持ち物のいくつかが その縁側の突き当たりの和室で発見されたが、 C自身の行方は皆目不明だった。 この後、結局何を見たのかについて、 けっこうな時間押し問答が続き、 最後にAは渋々ながらも語ってくれた。 おはぐろ。 そう、おはぐろの歯を剥き出しながら、 笑顔なのか泣き顔なのか怒り顔なのか、 何とも言いようのない表情の、 日本髪を結った割と年配の女性。 それが、Cの両足にしがみついてたんです。 それだけでも怖いのに、 その女性、頭と手と肩だけで、 ほかがないんです。 ぺったんこの着物が、 Cの背後の闇へズッと延びてるだけで。 ズッと、 不意に彼は蒼ざめ震え出した。 私が声をかけようとした刹那、 ズッと何かを引きずるような音が待合室の方からした。 私たちが顔を見合わせる間にも、 今度はエヘ、エヘヘという異様な笑い声がする。 彼はお前のせいだと言うような表情で私をにらむと、 驚くほどの身軽さでヒラリと窓から逃げ出す。 呆然と見送る私の背後で、 なおもズッ、ズズズッと何かが這い寄る音と、 エヘエヘと不気味な笑い声が 診察室のドアへと近づいて来る。 さあ、これを書き終えた今、 後は振り向き、ドアをジッと見つめながら、 ただ待ち続けるだけだ。
怖い話を読んでいると霊が寄ってくる?不安な方はこちらがおすすめ
感想や考察があればぜひコメントで教えてください ↓コメントする
この話は怖かったですか?
怖かった47
次はこちらの話なんていかがですか
続きを読む
※既読の話はオレンジ色の下線が灰色に変わります
いま話題のホラー漫画
憑きそい (扶桑社コミックス)
サユリ 完全版 (バーズコミックス スペシャル)
僕が死ぬだけの百物語(1) (サンデーうぇぶりコミックス)
N 1 (電撃コミックスNEXT)
ゾゾゾ変 (1) 【電子限定カラーイラスト収録&電子限定おまけ付き】 (バーズコミックス)
禍話 SNSで伝播する令和怪談
前の話:【洒落怖】血まみれの女
次の話:【洒落怖】当て逃げ
怖い話 No.44
【洒落怖】404号室
朗読 朗読ランプ亭,STスタジオ,OCCULT HITORI 怪談朗読ラジオ オカルトヒトリ,りょりょの怪談チャンネル【作業用かいだん朗読】
3252
32
2
長編9分
怖い話 No.22974
【洒落怖】卒業旅行計画
朗読 りょりょの怪談チャンネル【作業用かいだん朗読】,オカルトヒトリ 怪談朗読ラジオ
579
20
長編6分
怖い話 No.2013
【洒落怖】自販機の底から
1347
35
短編2分
怖い話 No.14829
【洒落怖】ティッシュ
1923
短編1分
怖い話 No.10154
【洒落怖】頭が無いのに
1616
34
1
怖い話 No.9545
【洒落怖】大きな塊のような物
1473
46
怖い話 No.9856
【洒落怖】ブラウン管テレビ
1607
42
中編3分
怖い話 No.17736
【洒落怖】手でバイバイ
1812
38
怖い話 No.9486
【洒落怖】小さな女の子の霊
1303
怖い話 No.7624
【洒落怖】どんぐり神社
1807
45
心霊サイト運営者
全国心霊マップ
ghostmap
プロフィール
Twitter
新着洒落怖
留守番電話
舞台学科による演劇
分譲現場
謎の会話
たけのこ掘り
かんのけ坂
4階のベランダから落ちた友人
林間学校で登山
自転車に乗っている夢
雄別炭鉱
運動会?
坪の内
新着コメント
どうか呪わないで。 空き巣より
逆吸血鬼と存在しない町
一年に一度村を無人化
普通の彼女じゃない
あんた死ぬよ
降って沸いた心霊現象
好奇心
タヌキ
赤猫