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3人に聞こえた声
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俺が年少の頃だから、 大体15年くらい前かな。 その頃はいわゆる「見える人」だった俺は、 いろんなものを見てた。 でも、ばあ様に 「絶対に人に言っちゃならん」 って教えられてて、 自分だけなんだって思って 子供ながら誰にも言えなかった。 見えるものは様々で、 やっぱり怖いのとか気持ち悪いのもあったわけで、 子供だったし怖かったから親父とか母さんとかと 夜は二階の寝室で一緒に寝てた。 朝起きると二人はもう起きていて、 俺はベッドの上から母親呼ぶのが日課だった。 自分で起きて一階に降りればいいんだけど、 どうしてもそれができなかった。 だって階段のところに、 鎧着たすごく怖い人が立ってたんだもん。 廊下の突き当たりに寝室、 反対側の突き当たりに物置部屋があったんだけど、 いつもその前にその人は立っていた。 母親を呼んで、 二階に上がって来ると その人は物置部屋に消えて行く。 だから毎朝毎朝、 母親をベッドの上から呼んでいた。 ある朝、いつもの様に起きて母親を呼んだ。 しかしいつもならすぐに返事をして上がって来るはずの母親が いくら経っても来ない。 その間、俺はずっとその人とにらめっこをしていた。 「目を逸らしちゃいけない」 なぜかそう思って、 怖いけどずっと見ていた。 何度も何度も呼ぶけど、 返事もない。 というより家の中に人の気配がなかった。 もしかしたら誰も居ないのかも知れない! 運悪くその日は日曜で、 廃品回収をする音が外から聞こえて、 視線を外に移すと、 外から気配が伝わってきた。 と同時に、 家の中に明らかに異質な気配が広がった。 しまった! そう思って視線を物置部屋に戻すと、 先程までは端に居た鎧の人は 廊下の3分の1くらいの所へと来ていた。 霞みがかったような姿で、 右手に刀、左手に盾のようなものを持っていた。 どうすればいいか分からない。 でも視線を逸らさなきゃ 近付いて来ないから大丈夫! という考えで、 怖いながらもずっとその人を睨み付けていた。 でも、その考えは甘かった。 ずっと睨んでいるのに、 その人は「ずずず、ずずず」と音を立てながら ゆっくりと俺の方へと進み始めた。 まさに蛇に睨まれた蛙ってこのことだと思う。 俺は何もできずに、 声を出すことすら忘れて 身動きが取れないでいた。 廊下の半分を過ぎた頃だろうか。 その人が左手に持っていたものがはっきり分かった。 盾なんかではない。 薄い板に磔けられた血だらけの赤ん坊だった。 それに一層恐怖を覚えて、 もう涙も涎も鼻水もぼろぼろ流しながら、 がくがく震えていた。 その人は廊下を歩き終え、 俺まであと数mの所まで来ていた。 おもむろに左手を上げると、 「わぬしか!わがたまきりたるはわぬしか!」 みたいなことを叫んだ。 首を振ることすらできなくて、 赤ん坊と鎧の人を見ていると、 俺を殺すためか鎧の人は刀を振り上げてまた歩いて来た。 あぁ、殺されちゃうんだ。死んじゃうんだ。 本気でそう思って俺が取った行動は ただ目を強く閉じることだった。 でもいくら経っても斬られない。 それどころか、物音ひとつしなくなった。 と、耳にふっと生暖かい息が吹き掛けられた。 「大丈夫。俺が居る。」 そう聞こえて、 急に安心してしまって目を開けると また鎧の人は廊下の端へと戻っていた。 それと同時に、 母親が二階へ走って上がって来た。 その姿を見て張り詰めていたものがぷつっと切れて、 俺はしばらく大泣きした。 後から聞いた話によると、 俺が起きた時 家にはばあ様だけが居て、 いつもの様にばあ様は仏壇と神棚に参っていた。 その時、じい様の遺影がパタッと倒れたかと思うと、 二階から俺が物凄い声で 「わぬしか!わがたまきりたるはわぬしか!」 と叫んだらしい。 この声を聞いて、二階に行かなきゃならん。 しかし何分足腰が悪い。 どうしようもないと階段を登りあぐねていたときに、 ばあ様にも聞こえたらしい。 死んだじい様の声で。 「大丈夫。俺が居る。」 ばあ様は信じられなかったけど、 なぜか安心してしまったと。 俺の叫び声は外まで聞こえたらしく (本当にとんでもなく、 地響きしそうなくらいでかかったらしい)、 それを聞いた母親は飛んで帰って来た。 そして、やっぱり母親も 「大丈夫。俺が居る。」 って玄関を開けた所で聞こえたそうだ。 それ以来、 鎧の人は物置部屋からは出てこなかった。 やっぱり、 じい様が俺のこと守ってくれたんかな? そう思える俺が持つ一番古い恐怖体験の記憶です。
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