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おごめご様
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おごめご様というのがいる。 と、従妹から聞いた。なんでも小学校に出るらしい。 その小学校には俺も通ったんだが、旧館と新館に分かれている。その二つの棟をつなぐ渡り廊下の側、植え込みの陰に隠れるように、ぽこんとした岩が置いてあった。 一抱えもある、黒っぽくてまるっこい、何の変哲もない岩だ。俺がいたころは墓石だという噂があって、誰も触ろうとしなかった。 六年生の誰それが肝試しでその岩を蹴っ飛ばしたが交通事故にあって目が見えなくなったとか、昔二階の廊下(二階にも渡り廊下があった)から落ちたやつがこの石で頭を割ったとか、岩の下には子供が埋まってるとか、まことしやかに囁かれていたものだった。どうやらその岩が新たな変化を遂げたらしい。 このGWにお茶工場をしている祖母を手伝いに田舎に帰ったときのことだ。従妹が目を輝かせて内緒話をするように俺に話しかけてきた。 従妹「おごめご様って、兄ちゃん知ってる?」俺「いや知らん。なに?」すると従妹はあからさまに落胆した顔をした。 良く聞いてみると、『学校におごめご様が出る。クラスでおごめご様はいい神様か悪い神様かで揉めた。 卒業生の兄ちゃんなら知ってるだろうと思った』ということらしい。おごめご様なんて知らなかったので詳しく聞いてみると、どうやら俺たちが墓石だの何だのと言っていた、あの岩のことらしい。 従妹「おごめご様はね、いい神様なんだよ。おごめご様にちゃんとお願いすると何でも叶えてくれるんだって。 yちゃんとtちゃんが試したってさ」従妹が一生懸命言う。ふーん、あのおっそろしかった岩が、今じゃ子供らの神様かー…と何となく懐かしいような気分になった。 俺「へー。…ちゃんとってなに?」従妹「あのね、おごめご様の前でね、呪文をとなえてね、おごめご様の頭と足を撫でながらお願いを言うの。 それでまた呪文を言って、叶ったら自分の髪の毛をおごめご様の後ろに一本おくんだよ」またずいぶんオカルティックな。呪文というのはまず始めに「カマカマカマ」、おしまいに「コモコモコモ」だという。 頭は岩の天辺、足というのは岩の下の方。こりゃ絶対高学年のオカルトマニアか誰かが作ったな…と思いながら、ふと気になったことを聞いてみた。 俺「ゆき(従妹・仮名)はおごめご様はいい神様だと思ってんの?」従妹「当たり前じゃん。お願い叶えてくれるんだよ」俺「じゃあさ、悪い神様だって言う子たちは、なんで悪い神様だと思ったんだろね」すると従妹は思いっきり顔をしかめた。 従妹「…おごめご様がお化けだって言う子たちがいるんだよ。おごめご様が出たって言うの」俺「…どんなの?」従妹「渡り廊下の隅っこにね、白い子供が仰向けに寝てるんだって。 大の字に広がってて、頭だけこっちを向いてて、それで『めごめご、おごおご』って言うんだって。だからおごめご様なんだって」従妹がへったくそな絵を書いてくれたんだが、それがまた何とも言えない怖さだった。 おごめご様は頭をこちら、足を反対側に向けて寝転がっている。その頭がこう、くっと立てられているのだ。 首だけでブリッジしたみたいな感じ。従妹「最近おごめご様が出るからって、下の廊下通んない子もいるんだよ」どうやらこのおごめご様はいい神様にしろ悪い神様にしろ、相当学校ではやっているようだった。 その場は祖母からお呼びがかかってお開きになったのだが、面白くなったのはその後だ。結局学生の気楽さで、平日も自主休講して二日から六日までお茶の手伝いをし、明日は帰るかと言う五日の晩だった。 従妹(家はすぐ近くだがこの時は泊まってった)はもう寝ており、ばあちゃんと父母、俺で、夕食後にのんびり酒を飲みながらだべっていた。大方はお茶の話で、今年は三月から冷えた日が続いたから今一葉っぱの出が悪かったとか、この辺ももうお茶を継ぐ人がおらんで大変だとかそんな愚痴みたいな話をしていたんだが、その内にふっと思い出しておごめご様の話をしてみた。 俺「そういやさー、ゆきの学校でさー、なんか変な神様がはやってんだって。おごめご様とかいってさあ」するとばあちゃんがぎょっとした顔をした。 俺「?」祖母「それ、本当か?おごめご?」俺「らしいよ。よく分かんないけど、願いを叶えてくれるやらお化けやら諸説出てるって」祖母「………はあー、まさかゆきはさわっとらんだろね」ばあちゃんは何だか本当に驚いたような顔をしている。 父母がきょとんとしているので、俺は二人におごめご様の説明をした。父は膝を叩いて言った。 父「あー、知ってるぞそれ。俺のときは何だったかなあ。 なんだか新館を建てる時に山を削ったら山の中にあの石があって、邪魔だからって掘ってみたんだな。そしたら下から壷に消し炭だか骨だか入ったのが出てきて、こりゃなんだか曰くのあるもんだろうっつってお祓いして岩をあそこに動かしたとかなんか、そんなんじゃなかったかな」初耳だった。 墓石というのも満更ガセではなかったらしい。聞けば俺たちが噂していた二階から落っこちたやつは親父の四つ上の男子だと言う。 窓の側でふざけていて、身を乗り出しすぎて落ちたらしい。確かにあの岩に頭をぶつけて危なかったが、死んではいないという。 父「ばあさんも知ってるのか、アレ。子供だけの噂だと思ってたわ」するとばあちゃんは呆れた顔をした。 祖母「知ってるも何もあんた、ありゃSんとこのモンだい。S、ほら、じーさんのハトコが跡とってからすっかり潰れたろ。 山ももう持ってられんくなったんだな。ちょうど学校を広げるっつうから県に売ったんだ。 近所でもずいぶん止めたけえが聞きゃあしない。ほいで山潰して学校にして、すぐSの家屋敷も焼けちまったろうが」Sというのはこの辺に多い名字で、今話題になってるのはウチの裏手の方、山際のS家だ。 小さいころからあんまりいい噂は聞かない家だった。焼けたという割には立派な家に住んでいるが。 祖母「それでまー、うつす時も大変だったよう。わざわざヨソから拝む人連れてきてさ。 だから触るなっていったのになあ」俺「え、その山にあったのって、なんかまずいもんだったの?」あまりにばあちゃんが嫌そうに言うので、思わず尋ねると、ばあちゃんは顔をしかめて言った。祖母「あれはさ、Sのとこで持ってたモンだで、何でも子供の神様でさあ、よっく祟るんだなあ。 母ちゃんに良く言われたよう、Sの山には入んなって」俺「あれってオゴメゴって言ってたの?昔から」祖母「おごめごったら男の子と女の子のことだな。ウチらはなんて呼んでたかなあ、やっぱりオゴ様とかオゴメ様とか言ってたな。 Sと仲いい家ってなかなかないだろ、祟られるからだろて」ここから先は学校の増築を推進した地主の家の悪口やら山の値段が下がった話やらになった。以上で大体話はおしまい。 元々はSの家の神様だったのが学校の中に移って、しかも学校の怪談になっているのが俺には面白く思えた。それにしても、親父のころも俺のころもおごめご様なんて言わなかったのに、なんで今になってそんな名前が出てきたんだろうか。 神様の方は誰かの創作だとして、お化けの方のおごめご様って、誰か見た人がいるんだろうか。つうかおごめご様って何よ?謎は尽きないがとりあえず終わり。
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