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神谷のおばさん
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俺が中学の時、 『神谷のおばさん』という有名人がいた。 同級生神谷君の母親なので『神谷のおばさん』な訳だが、 近所は勿論、同じ中学の奴もほとんど神谷のおばさん知ってる位有名人。 見た目は普通のおばさんなんだけど、 とにかく話を聞くのも話すのも上手い人で、 地元じゃ有名なヤンキーすら、 「神谷のおばさんに怒られちゃしょうがない」 って悪さ止めるくらい。 俺達中学生の下らない悩みとか、 相談を真剣に聞いてくれたし、 本気で怒ったり励ましたりしてくれる人だったな。 親とか先生には話せないことを、 相談出来る大人って感じ。 皆の母ちゃんっていうか。 で、神谷のおばさんといえば『怖い話』。 って思い出す位、怪談物が得意だった。 内容は多分よくある怪談なんだけど、 とにかく話し方が上手いんだよ。 滅茶苦茶怖くて、 女子なんかキャーキャー大騒ぎになるくらい。 そんな神谷のおばさんに関する話。 俺が中2の秋、 クラスに転入生が来たんだよね。 秋山君っていったと思う。 田舎だったからあんまり転入生とかなくって、 結構注目されてたような気がする。 背が高くて、顔立ちも整ってて、 いかにも女に受けそうな奴だなぁってのが、 俺の第一印象だった。 最初の頃は皆、 秋山の周りに行ってあれこれ世話してたんだけど、 日が経つにつれ、秋山は皆から避けられていった。 「犬に石ぶつけてた。 犬が怪我しても止めないの」 「猫をおもいっきり蹴って、 猫がピクピクして身動きしないのを、 踏みつけようとした」 勿論担任の耳にも入り、 注意されたみたいだけど、 母親が乗り込んできて、 「学校で悪いことしてないでしょう! 勉強だって出来るんです! (実際成績はトップクラスだった) 犬猫に何したって、 成績良ければいいじゃないですか!」 と大騒ぎしたらしい。 今でいうモンペだったんだな、母親。 噂では、前の学校でも問題起こして、 母親と学校が揉めたらしく、それで両親が離婚。 母親の実家に戻って来たってことだった。 うちの母親が地元出身で、 この秋山母のことも良く知ってたとかで、 そんな噂も俺の耳に入ったわけ。 しかし、うちの担任は熱血漢で、 はいそうですかとは引き下がらない。 「命の大切さ!弱いものを慈しむ心! 教育とは勉強だけじゃないんですよ!」 と、全面的に争う姿勢。 日頃担任をうざがってたヤンキー連中すら、 「全くだ」 と応援してたのがおかしかった(笑) とにかく秋山は怖かった。 ヤンキーとかの不良に感じる怖さじゃなくて、 得体が知れない闇みたいで、本気で皆怖がってた。 ある日、俺が神谷ん家に遊びに行くと、 ちょうどおばさんと神谷が買い物に行くところだった。 近所のスーパーなんだけど、 米やら重いもの買うから付き合うんだとのこと。 なら俺も付き合うよと、 三人でスーパーに向かう。 買い物中、 秋山が少し離れた所にポツンと立ってるのに気付いた。 秋山の家はここから大分離れてる。 ちょっと買い物にしては不自然だった。 俺は神谷の事を肘で小突いた。 神谷もすぐに秋山に気付いたみたいだった。 「何でこんなとこにあいついんの」 「知らねぇ」 ひそひそやってたら、 おばさんが後ろからスッと顔出した。 「あれ、あんたが言ってた秋山君って子?」 と呟く。 「良く分かったな~」 と二人でビックリしてたら、 「アレは駄目。近寄らないでね。 それしか方法が無いわ」 それだけ言うと、 おばさんは買い物に戻っていった。 今までどんな不良でも決して見捨てなかったおばさんの一言が、 えらいショックだった。 「うちの母ちゃんがあんな事言うなんて」 と、神谷もかなり驚いたらしい。 それからしばらくして、 秋山がパッタリ学校に来なくなった。 でも誰も心配しなかったし、 むしろこのまま来ないで欲しいという空気だった。 何回か母親が学校に乗り込んできて、 「イジメがあったはずだ! だから息子はおかしくなったんだ!」 と騒いでいた。 イジメは無かったけど、 クラスで孤立していたのは事実だから、 何かゴチャゴチャはしたらしい。 実は俺の家にも、 秋山母が来たんだよね(笑) うちの母ちゃんのこと、 向こうも知ってたみたいで。 「あんたの息子が苛めてたんじゃないのか」 「うちの子が出来がいいから妬んでた」 「どうせろくでもない息子だろ。 お前の息子が狂えば良かった」 最初は穏便に追い払おうとしたうちの両親も、 最後はかなりキレてたな(笑) 俺は何となく悲しかった。 ああ、このおばさんも狂ってるんだなぁ…って。 三学期も終わり、春休みのある日、 俺は神谷の家に遊びに行った。 おばさんと三人でお喋りしてるうちに、 ふと秋山の話になった。 実はずっと気になってたんだよね。 なんで秋山に近寄らない方が良かったのか。 秋山は結局学校に戻らなかった。 完全におかしくなっちゃって、 今でも病院らしい。 秋山母も、 離れた病院に入れられたらしい。 秋山祖父母は我関せず。 「あんなキ○ガイうちの人間じゃないから、 死ぬまで入院させておいてくれ」 と言ったとか。 そんな話と、 家まで怒鳴り込みかけられた話との後、 俺は神谷のおばさんに聞いた。 「結局秋山はなんだったの?」 おばさんは少し考えた後、 「人間ではない」 と答えた。 「一目見てわかったよね。 もう人間じゃなかった。 本当の秋山君は、多分普通の子だったと思うよ。 小さい頃から少しずつ食べられて、 本当の秋山君はもういなくなっちゃってた。 秋山君の皮の中に、 ドロドロした念が詰まって、 人間の形になってるだけ」 俺も神谷も驚愕した! 今まで『怪談』は良くしてくれたけど、 こんな霊能力者みたいな事を、 おばさんが言ったのは初めてだったのだ。 「な、なんでそんなことになっちゃうの?!怖いよ!」 真剣にビビる俺(笑)神谷も真っ青だった(笑) 「親の因果が子に報い~ってやつかしらね? あの家のお祖父さん、何人も人死なせてる。 直接殺した訳じゃないけど、 あのお祖父さんのせいで死んだ人が沢山いる。 秋山君のお母さんが歪んでるのはそのせい」 「でも、それじゃおさまらなかったから、 秋山君までいっちゃったのね。 死んだ人の恨みとか呪いが禍々しいモノを呼んで、 秋山君は食べられちゃった。可哀想に」 「そんなのないよ! じゃあ秋山悪くないんじゃん」 と神谷が言う。 「因果ってそんなもんなのよ。 個人じゃなくて『血』に祟るの。 親しい人とかね。 あんたらも心しておきなさいね。 そういうのには、人間の理屈は通用しないのよ」 神谷のおばさんは、最後こう言った。 「見てなさい、あのお祖父さんだって。 さ~て、お夕飯の支度しよっと! あ、木村くん(俺)も食べていきなさいね~」 と、おばさんは普通に台所に消えていった… 俺と神谷はすげぇ落ち込んでた(笑) だって、自分が悪くないのに、 そんな目に合うなんて怖すぎる… 何となく、 この話は誰にもしない方がいい気がして、 (神谷のおばさんが変な人扱いされそうで) 俺と神谷だけの秘密みたいな扱いになった。 俺も今や40近くなり、 おばさんは鬼籍の人となったから投下した次第。 その後、 秋山の祖父は病気になり、 全身が麻痺。 寝たきりになった。 祖母は看病疲れで亡くなり、 じいさんは施設に入れられた。 秋山祖父は昔は強欲な金貸しやってて、 相当悪どかった、と後から聞いた。 じいさんが入れられた施設に、 うちの母親の同級生が勤めていて、 その人情報だと、全身硬直していて座ることも出来ない。 それなのに痛みが止まらない。 いくら処置しても床擦れが治らない。 床擦れから感染して、 色んな病気になる。 それなのに死なない。 「あれは生地獄だよ」 と。 結局じいさんはつい最近まで、 つまり20年近くそのままだった。 秋山母と秋山に関してはよく知らない。 生きているのか死んでいるのかさえ。 結局全て偶然なのかもしれない。 秋山祖父はただ性質の悪い病気になっただけで、 秋山母と秋山は精神病を患っただけ。 だって、世の中には何も悪い事してなくても、 病気や事故で不幸な目にあった人はいっぱいいるし。 それでも俺は、 いまだに墓参りや法事には真剣に参加してる。 ご先祖様ありがとう。 皆のおかげで俺は幸せに暮らしてます、と。
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