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がさがさ
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4年位前の話。俺が高2のとき、婆ちゃんが死んだ。脳溢血っていうので一回倒れて、そのまま病院から帰ってこなかった。お通夜では俺が別れの言葉を言わせてもらったんだけど、せっかく寝ないで考えた原稿も、しゃくりあげて結局上手く言えなかったのが、凄い心残りだった。それで、その日の夜は、俺の親父が蝋燭番(?)をしなきゃいけない日だったんだけど、親父は次の日の準備とか、病院の片付けとかをやらなきゃいけなかったらしくて、親戚もそこまで気が回らなかったのか代役を立てずに、蝋燭番なしでその夜を過ごしたんだ。 でもまぁ実際、蝋燭の火が消えるか消えないかでそんな大事にはならないし、夜通し起きている人もいるので、火事の心配はないだろうと言うことだった。次の日、その日は葬式だったから朝から大忙しだった。母ちゃんとか女の人たちはみんなで料理を作ってるし、俺は親戚の子供をまとめて監視する役だった。葬儀事態は何の滞りもなく終わって、参列者の方たちに帰ってもらったあとは、みんなで飯を食った。でも俺だけはどうしても食欲がなくて、家族たちが居間で夕食をとっている間、ずっと婆ちゃんの棺桶の横で泣いてた。寝てるみたいに見えたのに、触ってみたら凄い冷たかった。そりゃそうだ。ドライアイスで冷やしてんだもんね。あれ。結局その日は飯を食わないで、そのまま仏間に一番近い部屋で一人で寝た。婆ちゃんの家は古いけど大きな家で、家の前には小さいけれど紅葉とか松とかが生えてる庭もあった。俺はその部屋で縁側を頭の方にして眠ることにした。とは言っても結局俺は寝つけずに、何度も寝返りを打っているうちに夜も過ぎて、柱時計が3回音を立てて鳴った。寝よう、寝なきゃ。そう思って無理に目を閉じると、なんだか変な音がする気がした。はじめは気のせいかと思ったが、音はだんだん大きくなっていった。足音だった。窓の外で砂利がざくざく踏みしめられる音がして、それがずっと頭の上のほうを右から左へ、行ったり来たりしてる。その内「ちりんちりん」とか、小さい鈴を転がすみたいな音もしてきて、俺は『ああ、婆ちゃんが最後に会いに来てくれたんだ』って思った。俺は親族中の誰よりも婆ちゃん子だったし、病院にもしょっちゅう会いに行ってた。でも、「彼女出来たか?」とか、「勉強どうだ?」とか、「友達とうまくやってるのか?」とか、色々心配されても、病気で寝てる婆ちゃんを心配させたくなかったから、俺は嘘を付いてごまかしてた。彼女なんて出来たこともないのに、女友達とデートに行ったとか、友達と釣りに行ったとか。そしたら婆ちゃん、おんなじ病室のじじいとかばばあにすごい嬉しそうに話すの。「孫にもついに彼女が出来た。きっと美人だ。孫は小さいころから気が小さかったけど、優しい子だったから」って。婆ちゃんは俺の嘘がほんとかどうか分かる前に、そのまま病院で死んじゃったから、婆ちゃんの中で、俺がどうしようもない孫にならなくて良かったってのと、結局最後まで本当の事は言えなかったっていう罪悪感で、なんだか複雑な感じだった。そんな俺を、婆ちゃんは死んでからもまだ心配で、こうやってお別れを言いに来てくれたのかなって思うと、なんだか嬉しくて情けなくて、俺は布団を被って婆ちゃんにばれないようにまた泣いた。すると、窓の外のざくざくが止まった。鈴の音も。俺は婆ちゃんが天国に行ったのかと思って、布団から顔を上げようとした瞬間、耳のすぐそばでちりんと鈴がなった。婆ちゃんは、しばらくすり足で俺の枕の上をうろうろしていた。俺にどうしても言いたいことがあったんだろうか。だったら俺も言いたかった。騙してごめんって。でももう心配しなくていいって。俺はもう大丈夫だよって、最後に安心させてあげたかった。だからそのまま布団の中で、「婆ちゃん…」て、婆ちゃんごめんなって言おうとした。声を出した瞬間、婆ちゃんが布団に手を突っ込んで、すごい力で俺の髪をわし掴みにした。そいつは、無理やり俺の頭を外に引きずり出そうと引っ張ってきて、必死で両手で布団にしがみ付くと、髪がぶちぶち音を立てて抜けてった。あ、こいつ婆ちゃんじゃねぇなって思った時には、もう怖くて声なんかでなくなった。怖すぎて、引きずり出されたら死ぬと思った。怖くてずっと目を瞑ってたんだけど、上に被ってた布団が「ばさ」って転げたのにびびって目を開けてしまった。やけに肌のがさがさした、全身かさぶたかうろこみたいな人間が、俺の顔を覗き込んでた。心臓が止まるかと思って、俺は絶叫したつもりだったんだけど、上手く息が出来なくて、「あっが、がふぁっ…」って訳の分からない声を出して、めちゃめちゃに腕を振り回して婆ちゃんの仏間に逃げた。そのまま朝まで、婆ちゃんの棺桶と壁との隙間に入って、ずっと開けっ放しにした襖を見てた。いつさっきのが入ってくるか分からなくて、死ぬほど怖かった。もしかして寝てたのかもしれない。朝になって母ちゃんが起きてくる音がしたんで、部屋に戻って見たらそいつはいなかった。正直夢かもしれないって、自分でも思ってた。ここでも気がついたら朝だった~系は、全部夢だって言われてんの見たことあるし。でもそうじゃなかったんだよ。火葬が終わって、墓入れとか納骨が済んだあと、暫くしてから婆ちゃんの仏壇拝みに行ったらなんかいるんだよね。俺今まで生きてきて、お化けとか幽霊とかそんなの一切見たことないし、気配すら感じた事がなかったから、あのがさがさ野郎が一体何なのかわかんないんだけどさ、そいつ婆ちゃんの仏壇の横、俺がそいつから逃げたときにいた場所に、俺の真似するみたいにして、全く同じ格好で座ってた。相変わらずがさがさの皮膚。目とか鼻とか口とかもよくわかんない。脱皮直前の蛇みたいなうろこ人間。気持ち悪かった。そいつはなんにもしないで(多分)ずっとこっちを見てるし。母ちゃんなんて、普通にそいつの隣で仏壇拝んでるし。婆ちゃんなんていないんだよね。うちの仏壇にいるのはがさがさだけ。俺怖くて、結局仏壇拝めなかったよ。これって、俺が婆ちゃん死んだショックで頭がおかしくなっちゃったのかな?どうせおかしくなるなら、俺は婆ちゃんの幽霊が見たかったよ。しかし、こんな事家族に言っても信じてもらえないしさぁ。うちはとんでもないもの仏壇に囲っちゃったよ。
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