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警備員
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ついこの前、俺の友達が体験した話を。 俺の友人=N太が、お盆に出社したときのこと。そこの会社は盆休みってヤツがなくて、それぞれ交代で休みを取るんだそうだ。 その日はN太の他に2人しか出社していなかった。大抵そういう日に限って面倒事ってのは起こるものだ。 案の定、定時間際になって電話がかかってきた。N太は管理系の部署で、滅多に苦情なんて来ないんだが、その電話の相手は物凄く怒っていて、今すぐ対応しないと収まらないようだったので、仕方なく残業することにした。 他の部署も、定時を過ぎると10分もしないうちに皆帰ってしまったが、静かな分集中できたので、19時にはほとんど片付いた。そこで、買っておいた弁当を食い、少し休憩してから続きにかかった。 と、再開して20分くらいすると、トイレに行きたくなり、個室へ入った。用は足したのだが、イマイチすっきりしないので、そのまま少しボーっとしていると、ふとトイレの怪談を思い出してしまった。 良くある、『入口から順にドアを開けて来て、最後に自分の個室を上から覗く何者か』の話だ。N太はちょっとビビって、扉の上を見た。 何も居ない。当然だ。 ホッとして身支度を整え、個室を出ようとドアに向き直った時、N太は見た。内側の鍵の上部、ドアの隙間の向こうに、何者かの『目』を。 正面から隙間を見ると、ドアの向こうが見えるのは、ほとんどの人が知っていると思う。そこに『目』。 それも睫毛まで見えるほどの物凄い至近距離だった。あまりの恐怖に全身が総毛立ち、何とかその目から隠れようと、蝶番側の壁に張り付いた。 そして、一体何が居るのかと、ドアの下を見た。それだけ近くに居るのに、靴も、影すら見えない。 そういえば、目は見たのに、顔の印象がない。そもそも、誰かが入ってきたらトイレ入口のドアが開閉する音が聞こえるはずだ。 N太は聞いた記憶がない。考えれば考えるほど、ドアの外に居るのは人ではないように思える。 どうしていいのか分からずそのまま震えていると、足音が聞こえた。時計を見ると、21時。 警備員の見回りだ。勿論、トイレも見る。 前を通った時、ドアの下に影が差した。窓が開いていたのか、閉める音がする。 戻ってくると、ノックされ声を掛けられた。「まだ残業するなら、申請書出してくださ~い」のんびりしたその声に気が緩み、声を返した。 「警備員さんですか?」「そうですよ~」「そこ、何も居ませんよね?」「私以外、誰も居ないですよ~」そう言われて、居なくなる前にと急いで外に出た。「どうしたんですか、顔が真っ青ですよ?」そう言われて、鏡を見ると、本当に酷い顔色だった。 ふと、さっきのは、鏡にでも映った自分なんじゃないだろうかと考えたが、そんなはずはない、ドアの正面には壁しかない。N太は、警備員に聞いた。 「トイレの中、僕のほかに誰も居なかったですよね?」「はい。そもそも、このフロアには他に誰も居ませんよ」その言葉にゾッとした。 背筋を嫌な汗が伝い落ちる。あんまりしつこく、何か居なかったか、と聞くので、警備員のほうが何が居たのか聞き返してきたが、N太は適当にあしらい、残りの仕事もそこそこに、急いで帰宅した。 その週の週末、N太は彼女のS美と一緒に、共通の友人・O宅を訪ねた。O家は、夫婦と5歳になる男の子がいる。 その日も5人で盛り上がり、途中で奥さんがお茶を淹れ直してくれたのだが、男の子が妙なことを言った。「おかあさん、おちゃがひとつたりないよ?」皆がテーブルの上を見るが、カップはちゃんと5個あった。 「Aちゃん、ちゃんとみんなの分あるわよ?ほら、1、2、3、4、5。ね?」1つずつ奥さんが指を指して数えたが、Aちゃんが納得しない。 「だって、ろくにんいるよ!」「・・・・・・・・・・・・」Aちゃん以外、奇妙な顔をしていた。「Aちゃん、だれが、足りないの?」奥さんが、恐る恐る聞くと、「おまわりさん。 」「え・・・?」「おにいちゃんとおねえちゃんのあいだに、もうひとりいるよ」N太とS美は顔を見合わせ、恐る恐る、振り返った。しかしそこにあったのは、今まで二人が寄りかかっていた、壁・・・。 「おまわりさんが、居るの?」「うん、あおいろのようふくをきたおまわりさんだよ!」みんなが疑わしげに聞くので、Aちゃんはむきになって言った。「おにいちゃんとおねえちゃんといっしょにぼくんちにきたんだよ!」N太はなんだか嫌な感じがしていた。 彼女と二人でO家に来たのだ、他に誰も一緒には居ない・・・。気持ち悪いながらも、子供の言うことだから、と一緒に食事をし、O家を後にした。 次の日、ようやくN太は思い出した。人間の警備員が来ていたのは、去年の暮れまでだったことを。 今では機械警備に変わり、人間は、誰も巡回していないことを。そして、警備員の制服は、\"おまわりさん\"とよく似ていることを・・・。
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