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某政令市の温泉宿
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飲み屋主催の忘年会で、 某政令市の奥座敷と呼ばれる場所にある温泉宿に宿泊した。 新館と旧館が繋がっている宿で、 4階境目ギリ新館に数部屋取った。 人数は15人前後、 子供を連れてきた人もいる。 冬季五輪でレジェンドがメダルを獲った年の話だ。 眠くなった人は別部屋に行き布団に入るため、 一番狭い部屋だけはいつまでも明るく、 小さなテレビで五輪を見る飲兵衛が気軽にたむろできる状態だった。 冬季日本人最年長メダルに祝杯を上げた頃、 部屋に残っていたのは私の他に男性が二人。 AさんとBさんとしておく。 ある程度飲んだ後、 Aさんが温泉に行ったので二人で飲む。 浴びるほど飲む。 時間は覚えていないがほとんど朝だった気がする。 しばらくしてAさんが不思議そうな顔をして戻ってきた。 玄関先で私を呼び、 「困ってるっぽいから声をかけてあげて」 的なことを言われた。 促されるまま廊下へ出るが、 辺りには何もない。 私が呼ばれてから廊下へ出るまであって1分程度のことだ。 首を捻りながら部屋に入った。 Aさんはいつの間にか寝ていたBさんの横に座って、 飲み直しながら何が困っていたのかを教えてくれた。 いわく、 温泉へ行くためこの部屋を出てすぐ、 家族客が泊っている隣の部屋のドアノブを握っている男の子が居た。 困った顔をしていたが、 温泉宿だし酔ってるしまぁ良いかと放っておいた。 男の子とはずっと目が合っていた。 温泉から戻っても男の子は変わらずドアノブを握って、 Aさんのことをじっと見ている。 さては締め出されたか? さすがに可哀想だと思い、 フロントに連絡する前に声をかけたいが、 男よりも女の方が安心だろうと私を呼んだ。 目を離したのはたかが十数秒、 その間に男の子は消えた。 カーペットの床なので少々の足音は響かないし、 どこかへ行ったのかもしれない。 長い廊下はどこまでも無人だったけど。 そんな話を聞いてオカルト好きの私はにわかに興奮する。 私服でした? 浴衣着てました? 何歳くらい? 髪型や顔立ちは? 色々聞いてみたが、 Aさんの返答はぼんやりしていた。 小学校低学年くらいの男の子、 それ以外なにも分からないらしい。 ちょっとばかし考えていたAさんは途中ではっとした顔をし、 ずっと目が合っていたと言った。 真後ろを通り過ぎたのに、 自分が目を離すまでずっと目が合っていた。 なんで気付かなかったんだろう。 これは幽霊を見たな、 いやいや何かの間違いだって、 こういうのってあるんだね、 と二人で盛り上がる。 すると眠っていたBさんが急に 「ごめんな、まだ眠いんだ」 と割とはっきり寝言を口にしたので、 ちょっと和んだ私たちも寝ることにした。 翌朝、と言っても30分寝たか寝ないかで目が覚めた。 飲み部屋を片付けに行くと、 いびきをかくBさんの横でAさんだけが起きていた。 当事者だからかまんじりともせず朝を迎えたそうだ。 昨晩の出来事をぶり返したのはAさんで、 皆が寝ている間、 この旅館について調べていたそうだ。 心霊情報は少なかったが、 元従業員が 『旧館の2階4階がやばい』 とブログに書いていたらしい。 そこでちょっとしたいたずらで、 「次にこの部屋に入ってきた人を誘い、 何も伝えず旧館の方へ行ってみよう」 というAさんの提案に私は乗った。 ぶっちゃけまだ全然酔ってたし。 運悪く最初に姿を見せたCさんを適当な理由を付けて誘い (薄々気付いかれていたと思う) 三人で旧館へ向かう。 Aさんと私は新館から旧館へ行く渡り廊下を過ぎて 旧館に足を踏み入れたが、 Cさんは頑なに渡り廊下から先へは来なかった。 理由を聞いてもはぐらかす。 しきりに 「戻りましょう」 と言っていたので、 私たちもさすがに申し訳なくなって部屋へ引き返した。 Bさんが寝ている部屋に戻り片付けを再開させると、 今度は逆にCさんが 「あれ、なんですか?」 と私たちに問い始めた。 あれとは何を指しているのか分からず 「旧館のこと?」 と質問を返すと、 Cさんは「子供」とだけ答えてくれた。 それ以外は何も答えてくれなかった。 Cさんは何かを見ていたのかもしれない。 正直、寝る前の出来事よりもぞっとした。 自分たちが振った話だから申し訳なかったが なんとなく空気が悪く、 片付けの物音で起きたBさんを 「寝てるのに眠いって言ってたよ」 って感じにいじって空気を変えようとした。 が、Bさんはそれは寝言じゃなく ちゃんと記憶にあると言う。 子供がBさんの肩を叩いて 「じゃんけん!じゃんけん!」 と言うから、断ったと。 早々に寝た面子の一人が子供を連れてきており、 結構懐かれていたし早起きして暇なのだろう、 くらいの気持ちで目も開けずに返事をしたそうだ。 これ以上は何もない。 Aさんはいまだに 「はっきり見たけど酔ってたし、あれは人間だった」 と言い張ってる。
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