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拝み屋紛いのことをしていた
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オカルト話とは少し違うんだけど語らせてほしい。数年前まで拝み屋紛いのことをしていた時期があった。その頃は、というか今もだけど絶賛ニート中でやることがなかった。当時は身内不幸が続いて、俺自身が無気力だったのもあるし金も転がり込んで余っていた。そんな時に中学の頃の悪友Aが仕事の愚痴をSNSに書き込んでいたのを見て、久しぶりに飲みに行かないかと誘ってみた。 そこでAの話を聞いたところ、「カウンセラーをしているが、時折こっくりさんや、肝試しで取りつかれたって話が多くて困る」って内容の愚痴を吐いていた。まだUSOとかほん怖とかが各週放送されていたころで、オカルトブームだったのもあるんだろう。それも相まって女子学生のそう言う相談が多かったらしい。Aはオカルト否定派だったからくだらないと一蹴したかったらしいが、それでは仕事に差し支えるから頑張って聞いていたけど、中には「娘が狐につかれた」ということで親に連れてこられたはいいけれど、憑かれた本人が大暴れして、部屋の調度品を壊されたりなんてこともあったらしい。そういったことが続いて精神的にまいっていたAに、そんなの近場の人とかに相談しちまえよと言ったのが事の始まり。「だったらお前が拝み屋の真似事でもしてくれよ」と言い出したAを笑ってやろうとしたけれど、暇つぶしに丁度いいかもと思ってしまった。とりあえずそれっぽい格好をしたほうがいいのかなと思って和服でもそろえようかと思ったけど、Aにどうせならうさん臭くない方が良い。もしこれで治ることがあれば俺の株もうなぎのぼりだから真面目に頼む。ということで、せっかくだし本腰入れてみようということで喪服で挑むことにした。他に用意したのはそれっぽいアイテム多数。数珠、経文、聖書、十字架、それからもいろいろと増えていった。最終的には銀で作った弾丸(もちろん薬きょうとか無しの側だけ)とか、ベニヤ板を切って作った人型とかいろいろと。お経はその頃の身内の不幸連発で知った般若心境を、聖書なんかは教会を探して礼拝に行ったりしてみた。それで拝み屋としての仕事が始まったのはAと飲んでから数か月がたってたはず。記憶を掘り返して覚えているのは、Aと飲んだ時は厚着してたけど、拝み屋を始めたころは扇風機を使ってたと思う。その間Aは「半年先なら拝み屋を紹介できる、今は予約でいっぱい」といってカウンセリングに来た人たちに説明していた。中には「そんなに待てない」という人もいたけど、それでもいいからという人もいたらしく予定がぎっしり詰め込まれていた。そうこうして拝み屋の仕事が始まった。仕事の内容は簡単だった。例えばこっくりさんをやって、狐に取りつかれた中学生のケース。この場合俺がやることは祝詞を唱えて、狐の声を聴くこと。オカルトっぽい描き方をしたけど、狐の声というのは【狐に取りつかれたと思い込んでいる子の声】やっててわかったことは、取りつかれたと思い込む子は何か抱え込んでいることがあるってこと。だからその言葉を聞くと、「親との確執がある」「学校で嫌なことがある」ということがわかったりする。例えば親との確執で悩んでいる子なんかは、「我を閉じ込めるその者たちが気に食わぬ」なんて言い回しをする子もいた。そう言った時には「ならば汝の求めることはなんぞ」みたいに芝居がかった言い回しをする。これは取りつかれたと思い込んだ側に、今除霊していると思い込ませるパフォーマンスだったりもする。後から知った話だけど、こういった手法は精神科で使われている場合もあるらしい。「思い込みをただすのではなく、思い込みを上書きする」って手法らしい。それで悩みを聞き出して、俺からも説得しようと言いくるめることができたら除霊完了。家族に、「お子さんはこういう不満を持っていて、そこに付け込まれたようです。これからはこのように接してみてはいかがでしょう」という感じで説明もする。それで終われば万々歳、一番簡単な解決パターンだった。この時一番重要だったのは、報酬はもらわないこと。相手を信頼させるためには、こちらが【作業】ではないと知ってもらうのが一番だった。その為に、「お金いりません、私の仕事は困っている人を救うことです。そのお金はお子さんとお食事に行かれてはいかがでしょう」みたいに言う。中にはそれでもという人がいるから、そういうときは、「ではこの場所に小さな神社がありますので、そちらのお賽銭にしてください」と言って手書きで地図を描いて渡してた。他にも【除霊】をするときは必ず相手の家族同伴で、エロいことをしていないとかの証明も重要だった。逆に厄介なパターンもあった。1つは中二病をこじらせただけの子供。その頃は中二病なんて名前があったかは覚えていないけど、本人はそれがかっこいいと思っているから思い込みでも何でもない。年齢特有の痛々しい病気であるということ。そういう場合は正面から、「お前それかっこいいと思ってんの?」「クラスでバカにされてるぞ」「くっだらねえ妄想だな」といってバカにした。こうすると激昂するか恥ずかしくなるかの二択で、どちらにせよ特に何もしない。相手の親の前で、「この通り、貴女のお子さんは話が通じます。単純に想像力豊かなようですので、作家などに向いているかもしれません。大丈夫、時間が解決してくれますよ」とか言ってた。恥ずかしがった場合も同様。ただし、「若気の至りで煙草を吸ったりすることもあったでしょう、それと同じです。今後このことに関しては触れないようにしてあげてください」みたいなフォローは入れてた。それで一番厄介だったパターンが、思い込みでリミッター外れたタイプと、本当にやばいタイプ。リミッターが外れたタイプは、この細腕でどこからそんな力がってやつがいた。当時悪魔に取りつかれたって少女がいたけど、中学生なのにとんでもないバカ力で、俺と相手の両親の三人がかりで抑えてやっとという状況だった。ちなみに相手によって使う道具は変えてて、悪魔だったら聖書だし、幽霊だったらお経だし、こっくりさんとかの動物関係だったら祝詞だった。そんで悪魔に取りつかれた少女の相手をしたときは、相手のお母さんに頼んで胸元に銀の十字架を押し当ててもらって、聖水(実はただのミネラルウォーター)を筆で顔に塗りたくって祈りの言葉を唱えたりした。やっと終わったと思って力を緩めた瞬間、右腕をつかまれて「お前も道連れだ」といわれて折られた。枝でも折るみたいな感じでばきっとやられたけど、それ以後少女はおとなしくなった。この時ばかりは報酬代わりに治療費だけ払ってくれということになった。ただ思い返してみると、「道連れなのに腕だけかよ」とか「悪魔なのに日本語なのか」とか突っ込みどころは万歳だった。そんでお待ちかね、本当にやばいパターン。滅多にいない、というか俺が見たのは二人だけだけど、オカルト否定派だった俺が肯定派になったきっかけでもある。その人が家に入った瞬間から気温が下がっていく感じがした。それからいつも通り事前情報から「これは動物の霊ですね」とか言った瞬間にバキバキバキって音がしたり、祝詞を唱え始めたらオブジェとして使ってた蝋燭の火の勢いが増したりといろいろあった。結局最後までその現象は続いて、祝詞だけじゃ無理となったからダメもとで聖書読んだり、お経を唱えたりいろいろしたけど駄目だった。散々試して駄目だから、高名な霊媒師や神社を紹介することしかできなかったのを覚えてる。ついでに言えば、紹介といってもこんなところやこんな方がいます、俺には無理ですがこの人たちならあるいは、って形で。結局廃業することにしたのは、このやばいパターンの二人目が原因。帰った後でも寒いまま、バキバキという音は鳴り続けてるし、風呂やトイレで視線を感じる、部屋に置いてあったはずの経文が玄関に落ちている、なんて現象が頻発するようになって、当時の家財道具一式をなげうった。ついでに仕事道具も奉納して、遺産である家も土地も手放してできるだけ離れた場所で生活しようと逃げ出したから。幸いなことに、この時の怪現象を引き起こしていたなにかは、それが幽霊なのか悪魔なのか、それとも俺の思い込みなのかはわからないけど、引っ越したら現象は収まった。悪友のAとはいまだに付き合いがあるし、たまにまた拝み屋をやってくれないかといわれるけど断ってる。霊感なんかないはずの俺でも感じられるほどやばいのがいる、それがわかったからもうかかわりたくはなかった。最後に〆ると、幽霊や悪魔は思い込みなのかもしれない。だけど思い込みだけでは解決できない問題も世の中にはあるということ。拝み屋をやっている間、俺はお客さんからは金を受け取らなかったけど、Aは事後受け取っていたらしい。取り分って言われていきなり7ケタ近い金を渡されたこともある。逆に「悪化した、どうにかしろ」という話が来たこともあるけど、その時は症状に応じた道具を渡して帰ってもらってた。「俺にはこれ以上できることがない、あとはあなた方次第です」みたいなことを言って。当然それだけじゃ納得しない人もいたけど、そういうときは「祓えるということは導けるということ」みたいな脅しを入れて帰ってもらった。もちろんそんな力はないけどね。パフォーマンスはいろいろやった。映画とか見てまねしたり、個人的によく使ったのは【コンスタンティン】って映画。その映画でキヌア・リーブス高が演じている主人公のまねを良くしてた。日に金属をかざして模様を当てて、苦しむ様子が見えたらそれを額に押し付けて~とか。あとは墨に髪を一本入れて、人型に名前を書いてもらったり。火薬を爆発させて音を出すおもちゃの銃で撃つことで脅かしたり。ラベルをはがした透明な酒瓶に真珠を入れて、ミネラルウォーター注いで聖水といいはったりもしたし、動物霊は煙草のにおいを嫌うと言って、密閉した部屋で1箱吸いきったり。たまに自分が取りつかれている間の記憶はないと思い込んでいる人もいたから、そういう人の為にお猪口一杯分のお神酒(ただの日本酒に酢を混ぜた物)を飲ませて、「何か、苦みや酸味はありましたか」って聞いたり。当然御酢が混ざっているから酸っぱいと答えるので、それはあなたに取りついた霊が反応しているのですと答えたり。あと人によってはネタ晴らしもしていた。「俺お祓いとかできませんよ。相手が取りつかれたと思っているから、お祓いしたしもう大丈夫と思いこませているだけです」って。これは最初からこっちを疑っている大人相手にやったこと。子供はこういう話は騙されるけど、親が警戒して茶々入れてくることがあるから、そういうときは別室に案内して説明してた。
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